Qosmio G50

6月23日に東芝が発表したAVノートのハイエンドモデル「Qosmio G50」は、アスペクト比16:9の18.4型ワイド液晶を搭載し、筐体デザインを一新するなど、従来モデルから大胆な仕様変更を遂げた。しかし、もっとも驚くべきは処理能力の向上だ。地デジ番組を従来比約8倍の時間も録画でき、DVDへのダビングは200%速くなっている。また、SD画質の映像ソースでハイビジョン映像に近い精密さで再生する機能も手に入れた。これらの技術革新は、東芝が開発した専用プロセッサ「SpursEngine(スパーズ・エンジン) SE1000」に依るところが大きい。

CPUとGPUにSpursEngineを加えることで、Qosmio G50は他のAVパソコンとは一線を画すパフォーマンスを実現している。では、SpursEngineはどんな狙いで作られたのだろうか。また、SpursEngineによってAVパソコンの将来はどのように変わるのか。プロジェクトの根幹から携わり製品化までの道を作り続けた東芝PC&ネットワーク社の的場氏と根岸氏に話を伺った。

株式会社東芝 PC&ネットワーク社 AV-PC技師長 的場 司氏。AVに関する差違化商品の技術開発を担当し、Qosmioの製品計画が立ち上がった頃から携わっている。SpursEngineの開発も最初期から参加している

株式会社東芝 PC&ネットワーク社 PC第一事業部 PCマーケティング部 プロダクトマーケティング担当 主務 根岸 伸一氏。商品企画担当の立場で、的場氏と同じく、Qosmio事業を企画段階の2003年から担当している。諸般の事情により写真はNGとなった

3年半かけて組み込まれたSpursEngine

新Qosmio G50/F50に内蔵されているSpursEngine

──まずはSpursEngineを作った経緯を教えてください。

的場 プロジェクトは2005年1月に始動しました。Qosmio第一弾をリリースしたのが2004年7月なので、その数ヶ月後ですね。それから1年かけて構想を練って、2006年から開発を始めて、2年半かかりました。

根岸 2005年の頃から、HDコンテンツが家庭に普及するという予測を立てていました。地デジやネット経由の高画質ムービーに対応できるよう、早めに専用チップの製造に着手して、PCで快適にHDコンテンツが見られる環境を整えていこうと考えていまして。

──2008年の夏モデルであるQosmio G50/F50、dynabook Qosmio FXシリーズが、国内向けPCとして初のSpursEngine搭載機となります。このタイミングでの投入は、当初の計画からして予定通りだったんですか?

的場 本当は2007年秋冬モデルに投入したかったんですよ。しかし、チップをイチから起こすとなると、かなりの時間がかかると分かってきまして。もともとCellプロセッサ(※1)をパソコンの中に入れようというのが、発端だったんです。しかし、消費電力が高すぎて、そのままでは入りきらないと。そこでコアを9個から4個に減らし、担当させる分野を主にAVに絞りました。それでもまだ消費電力が高かったので、デコーダーとエンコーダーチップを別途用意し処理を分散させることで、ようやく低消費電力と高速処理を両立させることができたんです。

※1:Cell Broadband Engine…東芝とソニー、ソニー・コンピュータエンタテインメント、IBMが共同開発したマイクロプロセッサ。9個のプロセッサを内蔵しており、特定の処理に特化させることで高クロック動作を実現した。PlayStation 3やスーパーコンピューターなどの幅広い分野で利用されている。

──すると、SpursEngineの核となる機能は、ビデオ処理ですか?

的場 そうですね。特に、SD画質の映像ソースをHD映像に近づけるという「アップコンバート」技術が核になっています。SpursEngineでは、単に中間色を補間するのではなく、画像の自己同一性という特性を使って緻密な映像を作ります。これは、ひとつの画像の中には必ずある類似する箇所を引用する技術です。たとえば、木の映像で枝を精密に表示したかったら、映像内の別の木のところから類似のパーツを見つけて、それを当てはめるわけです。SpursEngineはその処理をドット単位で瞬時に行って、画像を精密に見せています。

──なるほど。では実際、どれくらいの画質向上が期待できますか。たとえば、地デジの8倍録画の場合は、どうでしょう?

根岸 8倍録画の映像データはSD画質と同程度になるので、フルハイビジョンのシャープネスさが失われます。通常なら見られたものじゃなくなる程ですが、H.264のコーデックを使うこととSpursEngineによるエンコードの最適化で、充分鑑賞に堪えられる画質となりました。

的場 まったくHD画質と同じかといったら、やっぱり違いはありますけどね。ただ、今までそのままDVDプレーヤーが表示していたSD映像に比べると断然キレイですよ。

根岸 特に画質の向上がみられるのは、細かいものがたくさん写っている映像です。風景映像で奥にある小さな建物や木々がくっきりと見えたり、スポーツの映像で観客席に注目すると一目瞭然ですね。録画データだけでなく、従来のDVDソフトをQosmio G50/F50で再生する場合も、SpursEngineに対応した「Qosmio AV Center」と「Windows Media Center」を使えば、今までよりも精密な映像が楽しめます。

左の低画質の映像が、SpursEngineによるアップコンバートにより右のような高画質映像になる