「信長の野望」シリーズをご存知だろうか? 1983年にPCゲームとして登場した『信長の野望』以来、20年以上にわたって愛され続けている歴史シミュレーションゲームの金字塔だ。PCだけでなく、プレイステーション 2やWiiなどの家庭用ゲーム機でも発売されており、幅広いファンを獲得している。今回紹介する『国盗り頭脳バトル 信長の野望』は、そんなシリーズの外伝的な作品である。

タイトルに「信長の野望」とはあるものの、システムは完全にオリジナルでボードゲーム風。とはいえ、織田信長や武田信玄といった戦国大名の一人となって天下統一を目指す、という基本的な目標はこれまでのシリーズ同様だ。

移植にあらず! ニンテンドーDS完全オリジナルの「信長の野望」

内政、外交、人事など多彩なコマンドを駆使して戦略を組み立てるのが醍醐味である本家SLGの「信長の野望」シリーズに対し、本作のルールは非常にシンプル。基本的に自軍のコマを動かすだけで領土を拡大できる。コマには「戦力」という数値(基本的には1~9)が設定されており、単純にこれが高いものが強い。たとえば、戦力が1つでも高いコマが敵のコマを攻撃した場合、相性に関係なく勝利となる。相性というのは、いわゆる「3すくみ」のこと。コマには「足軽」「鉄砲」「騎馬」といった3つの種類があり、それぞれがじゃんけんのような強弱関係にある。「足軽」は「鉄砲」に強く、「鉄砲」は「騎馬」に強く、「騎馬」は「足軽」に強い。この3すくみの「相性」は自分より戦力の高いコマと戦うときに重要になる。とりあえず、コマの戦力の意味と3すくみの相性、これだけ覚えておけば、すぐにゲームを始めることができる。

マップはマスで区切られていて、自軍のコマを移動させると、そのマスを占領したことになる

ゲームの開始時に、どのコマ(武将)を使用するかを選ぶことになる。各プレイヤーには使用できるコスト(知行)が割り当てられており、戦力の高いコマほどコストが高い。少数精鋭でいくか、「戦いは数だよ」とばかりに1コマあたりは弱くても数を多くするか。いずれにも長所と短所があるので、大きな悩みどころであり、腕の見せどころでもある。いわば、カードゲームのデッキ構築のような楽しさなのだ。規定ターンが終了した時点で最大の領土を支配しているプレイヤーの勝利となる。1ゲームが平均30分前後とコンパクトなため、気軽に遊べるのも良いところである。

敵軍のコマと同じマスに入ると戦闘開始。下に表示されている数字が戦力で、これが大きいほうが勝つ

3種類の兵科をバランスよくそろえるのか、1つの兵科にこだわるのか。軍団編成から戦いは始まっているのだ

逆転、裏切りが頻発! 異様に盛り上がる対戦

「ルールがシンプル!」と力説したが、だからといって底が浅いわけではない。「どれだけ戦力が高くても相性の悪いコマには反撃できない」、「戦力の低いコマから先に動ける」、などの絶妙なルール設定により、大軍がいつも勝つとは限らず逆転が頻発する。まさに「波瀾盤上」なのである。また、対人戦や1人用の難関マップでは、コマの行動順や各コマに備わっているスキル(特技)を総合的に考えて、移動させるコマを選ばないと簡単には勝てなくなってくる。また、対人戦ならば、劣勢のプレイヤー同士で同盟して首位のプレイヤーを集中攻撃、あるいは首位のプレイヤーと同盟して油断させ、同盟の期限が切れた瞬間に背後から攻撃するなど、本物の戦国乱世さながらの権謀術数がうずまく。対人戦ゆえのことでもあるが、このあたりの策略がうまくハマったときの達成感は本家SLG以上かもしれない。

同盟関係は基本的には当事者同士にしかわからないうえに、頻繁に同盟相手が入れ替わる。対人戦ならではの外交にも熱が入る

そのほか特筆すべきは、対戦時のテンポのよさ。各プレイヤーのコマンド入力と行動の結果が同時に処理されるため、待ち時間が短く、1ターンが非常にスムーズに進む。私事で恐縮だが、筆者は昔、本家SLGの『信長の野望』で対戦することが大好きだった。が、そもそも対戦を前提にしていないバランスなのか、ガチンコ勝負をしようとするとさまざまな問題が発生する。ターン制のSLGであるため、対戦相手がコマンド入力しているときはヒマになってしまうのだ。そもそも対戦相手のコマンド入力を見ていては戦略が筒抜けなので、相手の順番が回ってきたらテレビに背を向けて画面を見ない、などの涙ぐましい努力をしたものである。だが、それ以前の問題もあった。プレイ時間が長くなりすぎるため、誰かが天下統一するまでプレイすることが現実的に不可能であり、最後まで白黒はっきりとさせることができなかったのだ。ある意味、対戦が前提であるボードゲームと、1人用が前提であるSLGを比べても意味はないのかもしれない。だがそれでも、「信長の野望」と名乗るタイトルで、あの頃の夢を叶えてくれたことに感謝しておきたい。

話を本筋に戻そう。本作はWi-Fiを利用したネット対戦にも対応。全国の猛者と自宅にいながらにして対戦できる。全国ランキング上位のプレイヤーには称号が与えられるのだが、それが「征夷大将軍」や「管領」など室町幕府の役職で、いかにも『信長の野望』らしいものになっているのも個人的には好印象。このあたりは、従来のシリーズのファンであるかどうかによって、ありがたみは異なってくるかもしれないが……。ただ残念なことに、現時点では、Wi-Fiのフリー対戦で相手がなかなか見つけられないという事実もある。このレビューを読んでいただいた方たちの参戦を、心からお待ち申し上げております。

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