米国の大手半導体ベンダTexas Instruments(TI)の日本法人である日本テキサス・インスツルメンツ(日本TI)は7月29日に東京で記者会見を開催し、今後の事業戦略を説明するとともに、組み込みプロセッサの新製品4シリーズを発表した。

記者会見で説明にあたった日本テキサス・インスツルメンツ(日本TI)執行役員で営業・技術本部ビジネス・デベロップメント部長の田口倫彰氏(右)と同社営業・技術本部ビジネス・デベロップメント カタログプロセッサ&コントローラ グループマネージャの正田博之氏(左)

始めに日本テキサス・インスツルメンツ執行役員で営業・技術本部ビジネス・デベロップメント部長の田口倫彰氏がTIの現状を説明した。同社の2007年の売上高は138億ドルで、その中で半導体事業が133億ドルとほとんどを占めている。残りの5億ドルは教育用電卓事業である。半導体の製品別売上高はDSPが38%、アナログが40%、そのほか(マイクロコントローラ、DLP(Digital Light Processing)チップなど)が22%となっている。

田口氏は今後の注力分野として、

  1. 組み込みプロセッサ(DSPとマイクロコントローラ)
  2. アナログ(汎用高性能アナログ、特定用途アナログ)

の2つを挙げた。応用分野としては医療分野と車載分野に期待すると述べていた。

ご存知の方も少なくないと思うが、TIのDSP事業の多くは携帯電話機向けである。携帯電話機におけるTIのシェアはかなり大きく、携帯電話機向けだけでは、DSP事業の大幅な拡大は今後、見込みづらい。このため、今後の急速な成長が期待できる分野に向け、組み込みプロセッサを投入するとみられる。

Texas Instrumentsの半導体売上高比率と今後の注力分野

TIの強みは、信号処理の入口から出口までをすべてカバーする製品群を有していることだと田口氏は述べていた。どういうことかというと、物理的な信号はすべてアナログ信号である。最近では入力アナログ信号をデジタル信号に変換し、デジタル信号を演算処理し、再びアナログ信号に変換して出力するシステムが多い。

こういったシステムでは、アナログ信号を増幅する「アンプIC」、アナログ信号をデジタル信号に変換する「A/D変換器(A/Dコンバータ)IC」、デジタル信号を演算処理する「DSP」および「マイクロコントローラ」、演算結果のデジタル信号をアナログ信号に変換する「D/A変換器(D/Aコンバータ)IC」、アナログ信号出力を増幅する「アンプIC」を必要とする。これらすべての半導体製品をTIは提供しているのである。ただし、信号処理の入口から出口までをすべてカバーする製品群を有することをTIは従来からアピールしており、やや繰り返しの感があった。

続いて日本テキサス・インスツルメンツ営業・技術本部ビジネス・デベロップメント カタログプロセッサ&コントローラ グループマネージャの正田博之氏が、組み込みプロセッサの新製品を紹介した。

今回、一気の4つの新シリーズを発表した。新シリーズの主要な改良点は、従来と同等以上の性能で消費電力を下げたというものである。TIの組み込みプロセッサ製品群の中ではミッドレンジに相当する製品で、「低消費電力DSP」と「アプリケーション・プロセッサ(ローエンド品)」に位置づけられる。「低消費電力DSP」では新製品が3シリーズ、「アプリケーション・プロセッサ(ローエンド品)」では新製品が1シリーズ投入される。品種数では合計で15品種に達する。

TIの組み込みプロセッサ製品群。縦軸が性能および消費電力を示す。左から右へ行くほど、消費電力の低い製品群となる。今回発表したのは「低消費電力DSP」のカテゴリで「C5000」の後継品3シリーズと、「アプリケーション・プロセッサ」のカテゴリでARMコア内蔵のプロセッサ「OMAP」ファミリのローエンド品1シリーズである

固定小数点DSPでは、消費電力を従来品「TMS320C55x」の半分に下げた「TMS320C550x」シリーズを開発した。高速フーリエ変換(FFT)コプロセッサを内蔵しており、計測データの高速解析演算に適する。

浮動小数点DSPでは、消費電力を従来品「TMS320C67x」の3分の1に低減した「TMS320C674x」シリーズを開発した。24ビットおよび32ビット・データの高精度演算に適する。さらに性能の高い浮動小数点DSP「TMS320C640x」シリーズも開発した。従来品「TMS320C6000」に比べ、消費電力を半分に下げた。

そして「アプリケーション・プロセッサ」では、32ビットRISCコア「ARM9」を内蔵したプロセッサ「OMAP-L1x」シリーズを開発した。同シリーズはARM9コアとプロセッサコアを内蔵するデュアルコア製品である。ARM9と組み合わせるプロセッサコアには「C64x+コア」、「C674xコア」、「オーディオ・コプロセッサ・コア」がある。

I組み込みプロセッサの新シリーズ一覧

固定小数点DSPの新製品「TMS320C550x」シリーズ。90nmプロセスで製造する

浮動小数点DSPの新製品「TMS320C674x」シリーズ。65nmプロセスで製造する

浮動小数点DSPの新製品「TMS320C640x」シリーズとOMAPファミリの新製品「OMAP-L1x」シリーズ