2009年4月から、受託開発するソフトウェアに関する会計基準として「工事進行基準」が原則適用になる。長らく「どんぶり勘定」で通されてきたIT業界にとって、あいまいさを許さない「工事進行基準」の適用はどのような影響があるのだろうか。マイクロソフトのProject担当プロダクトマネージャに話を聞いた。

「工事進行基準」適用のメリット

日本ではこれまで、開発が終了して検収を受けたときに一括して売上を計上する「工事完成基準」が一般的だった。受注時や開発中には利益・赤字が把握しづらく、製品と関連サービスを一体化した「複合契約」の場合には、何がどれだけの収益につながっているのかというような分析も難しい。会計監査的に問題があるのはもちろん、要件定義が固まらないうちに開発を始めたり、仕様変更を受け入れすぎたりするせいで、納期ギリギリになってから徹夜や休日出勤で無理に間に合わせるということが多く、労働環境の悪化やクオリティの低下にもつながっていた。

それらの問題を解決できるとされているのが「工事進行基準」だ。開発の進捗度に合わせて収益を分散計上する仕組みとなっている。

「工事完成基準」から「工事進行基準」基準へ(出典:マイクロソフト)

マイクロソフト インフォメーションワーカービジネス本部 IWソリューションマーケティンググループ エグゼクティブ部プロダクトマネージャ 相場宏二氏

「工事進行基準を適用するためには、ブレのない見積もりの作成や進捗度の厳密な把握等が必要となってきます。お客様との話し合いもより綿密でなければなりません。事務処理も増えます。しかし、ただ面倒な方法になるというわけではありません。最初にきちんと全体を見渡した見積もりを行い、要件定義をしっかりすることで、劣悪になっているIT業界の労働環境を適切なものにすることにつながる会計基準だといえるでしょう」とマイクロソフト インフォメーションワーカービジネス本部 IWソリューションマーケティンググループ エグゼクティブ部プロダクトマネージャである相場宏二氏は語る。

原価比例法による進捗管理には厳密な見積もりが必要

「工事会計基準」に対応するために重要なのは、精度の高い見積もりだ。収益総額の信頼性、原価総額の信頼性、決算日における進捗度の信頼性をもった見積もりだ。しっかりとした見積もりでプロジェクトの先行きを見渡した上でなければ、現在開発の進捗状況がどのあたりにあるのかを見極めることができない。

「進捗状況を計る方法には、原価比例法やEVM(アーンド バリュー マネジメント)などがあります。工事進行基準のデメリットである、恣意的な解釈を廃し、検証可能性や客観性を確保するためには原価比例法が適していると考えられます」と相場氏は語る。

原価比例法とは、見積もりで算定した原価を基準に、その時点でかかっている実際発生原価の割合を進捗率とする方法だ。内容的な進捗状況を見るわけではないため、実際の開発進捗度とはズレが生じる可能性がある。明らかな齟齬が発生した場合には見積もりの修正を行い、損失引当金として計上しなければならない。

「従来の人月単位のような大雑把な見積もりでは対応できません。仕様を明確にし、フェーズごとに詳細化した上で、どの程度のスキルの開発者が何人いるのかを算出しなければなりません。そのためには業務プロセスの標準化と、WBS(Work Breakdown Structure:プロジェクトをさらに細かくブレークダウンする)の作成が必要になります」と相場氏。

原価比例法とは(出典:マイクロソフト)

ハードウェアとソフトウェア開発、保守を一体化したような複合取引は分割契約することになる。ソフトウェア開発自体も、要件定義や運用準備といった部分とシステム構築部分を分割する方法が増えてくるだろう。従来の手法は全く通用しなくなると言ってもよい状態だ。

「プロジェクトマネジメントの強化が求められます。お客様にも理解していただかなければなりません。工事進行基準の適用は義務ではありませんが、ぜひ行うべきだと考えています。主要先進国でまだ工事完成基準で進行しているのは日本だけ。国際会計基準では認められないものなのです。また、工事進行基準を選択できないとうことは、見積もりがあいまいですよと言っているようなもの。企業としての信頼が失われることになりかねません」と相場氏は語る。