今回取り上げる書籍は、「SE業界にありがちな勘違いをおもしろおかしく取り上げる」ことをテーマとした、きたみりゅうじ氏の最新コミックだ。

「リターンズ」と題名にあることからもおわかりの通り、同じテーマで書かれた書籍が以前にも出版されており、今回はその続編と言ったかたちだ。前作はモノクロページが大半を占めていたが、読者からの好評を反映してか、今回はなんとオールカラー。毎回「SEって……だよね?」というタイトルを設定して、SEにまつわる「あるある」話をマンガと文章で明るく楽しく読ませてくれる。前作と同じく各回のボリュームは7、8ページ程度で、1冊当たり25編のタイトルが詰め込まれている。オールカラーになったにもかかわらず、値段が変わらない(税別1,500円)とはちょっとお得だ。

帯までオールカラーで1,500円也!

本作は、リクルートのWebサイトで連載されているコミックの書籍化だ。したがって、その気になれば全部Webで読むことも可能だが、やはり書籍のほうがはるかに読みやすいし、携帯性も高い。書籍化に当たって描き下ろしマンガも含まれているので、Webで読んで気に入った方が、買って損に思うことはないだろう。

本書のウリはやはり、SEとして共感できるエピソードが多数詰め込まれていること。激務をこなすITエンジニアにとって、「つらいのは自分(の職場)だけじゃない」という慰めになるのは請け合いだ。連日続く徹夜と残業、納期のプレッシャー、恋人や家族からは「本当に仕事なの?」と白い目で見られ、友人を見ると自分よりも楽そうな仕事でしっかりお給料をもらっており、職場の人間はみんな疲れきってダルそうにしゃべるか、ちょっとしたことで怒りだす、本来自分はそんな人間ではなかったはずなのに、口をついて出るのはネガティブな言葉ばかり……大丈夫、そんな状況にいるのはあなただけではない!

また、自分では気づきにくい「SEならではの癖」を取り上げている話も多く、身につまされることもよくある。たとえば、「SEってなんでも否定から入るよね?」とか、「SEって質問に質問で返すよね?」とか。とくに後者に関しては、つい先日僕も母親に「あんたはイジワルだ」となじられたばかり。さすがはきたみりゅうじ氏、よくわかってらっしゃる、という感じだ。

そんなSEの実態を、キュートな絵柄でおもしろおかしく(ちょっとシニカルに)描き出す技量は、さすがの一言。1,500円という価格設定も、ちょうどAmazonで注文しても送料がかからない値段だし、お手軽で良い。

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こんな本書の欠点を上げるとすると、徹夜ネタや激務ネタは共感できて笑える部分も多いのだが、まったくもって他人事ではないこと。今の僕は徹夜SEからは少し距離を置いた仕事をしているが、つらかった日々を思い出すと、今でも胃がシクシク痛くなる。読んでいる側がこれなのだから、書いているきたみりゅうじ氏は、いつまでたっても悪夢の思い出から抜け出せないのではないか、といらぬ心配をしてみたり。

この書籍に書かれているようなSEの生活が実際普通で、標準的かと言われると……僕としてはその通りだと思う。僕自身の経験からも、知り合いの働きぶりを見ていても。しかし、就職前の学生がこの本を読んで実態を知ってしまったら、ますますこの業界に就職を希望する学生が減ってしまうのではないか。そして人手不足に見舞われたSEたちは、さらなる激務のスパイラルへと……そういう意味では、ちょっと罪作りな書籍かもしれない。

Dr.きたみりゅうじのSE業界ありがち勘違いクリニック リターンズ

きたみりゅうじ 著
講談社
2008年6月20日発行
四六判 222ページ
ISBN: 978-4-06-282088-2
定価 1,575円(本体1,500円)

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