レンズは、広角や望遠など、その種類によって特性や描写が大きく変わってくる。「マクロレンズ」は、小さな被写体を大きく写せるのが特長。小物や植物、昆虫などの撮影で威力を発揮するレンズだ。今回はマクロレンズで花を撮る「花マクロ」と呼ばれているジャンルの撮影について見ていこう。

大きく写せるマクロレンズ

マクロレンズの魅力は、まずなんといっても被写体を大きく写せること。レンズのスペックを見ると、被写体をどこまで大きく写せるかを示す「撮影倍率」が記載されている。この倍率が大きいほど被写体を大きく撮影できる。個々のレンズによって異なるが、だいたい通常のズームレンズで約0.25倍、マクロ機能を持つレンズなら約0.4倍程度が一般的のようだ。しかし本格的なマクロレンズでは、撮影倍率が「1倍」になっている。つまり被写体と同じ大きさの像を撮像素子上に写すことが可能なわけだ。ちなみに「1倍」は、「等倍」、「1:1」などとも表記される。どれも同じ意味だ。

勘違いしやすいのは、マクロレンズは「大きく写せるレンズ」であり、「近くに寄れる」レンズではないということ。マクロレンズであっても、焦点距離が長けば被写体から撮像素子までの距離を指す「最短撮影距離」も長くなる傾向にある。ちなみに被写体からレンズ前面の距離のことは「ワーキングディスタンス」という。

マクロレンズも焦点距離でいくつかに分類されることもある。一般的に50~60mmクラスを「標準マクロ」、90~105mmクラスを「中望遠マクロ」、180~200mmクラスを「望遠マクロ」と呼び、焦点距離によってボケの効果や特長が変わってくる。標準マクロは、画角が広く被写界深度が深いため、背景の写り込みが多くなりボケの効果もそれほど強くはない。またボディサイズがコンパクトで、最短撮影距離が短いことも特長である。中望遠マクロは、画角が広すぎず狭すぎず、ボケも色と形が綺麗に出て使いやすい。このことから1本目のマクロレンズに適しているといわれている。望遠マクロは、被写界深度が極端に浅く、ボケも非常に強くなるため、背景を色だけにすることも可能になる。また画角が狭いので、背景を整理しやすいことも特長になる。花壇など、被写体との距離に制限がある場所や、近づくと逃げてしまう虫などの撮影に向いている。ただし、標準マクロや中望遠マクロ以上にブレが起こりやすい。

【撮影倍率による違い】

0.25倍 (1:4、1/4倍)

0.5倍 (1:2、1/2倍)

約0.83倍 (1:1.2、1/1.2倍)

1倍 (1:1、等倍)

【焦点距離による最短撮影距離の違い】

最短撮影距離とは、被写体から撮像素子までの距離。ワーキングディスタンスとは、被写体からレンズ前面までの距離を指す

画面に対して被写体の大きさを同じにして撮影すると、焦点距離が長くなるほど、撮影距離は長くなる

シグマ APO MACRO 180mm F3.5 EX DG。等倍撮影が可能なの望遠マクロレンズ。最短撮影距離は46cm。フィルター径は72mm

ソニー 100mm F2.8 Macro。等倍撮影が可能なの中望遠マクロレンズ。最短撮影距離は35cm。フィルター径は55mm

ソニー 50mm F2.8 Macro。等倍撮影が可能なの標準マクロレンズ。最短撮影距離は20cm。フィルター径は55mm

応用力の高いマクロ機構付きズームレンズ

通常のレンズにもマクロ機構を搭載したレンズが存在する。マクロレンズほどの高倍率撮影や大きなボケの表現は不可能だが、被写体を大きく撮影できたり、近接撮影が可能だったりする。マクロ機構付きレンズはズームレンズが一般的なので、広い焦点距離をカバーできることが特長だ。

ズームレンズでの最大撮影倍率は、最短撮影距離と焦点距離で決まる。つまりズームを望遠にして大きく写しつつ、可能な限り被写体に近づけば、それだけ大きく写せるわけだ。最短撮影距離がズーム全域で一定ならばテレ端でもっとも被写体が大きくなる。レンズによってはテレ端では最短撮影距離が長くなり、ズーム中間で最大倍率になるものもあるようだが、ほとんどはテレ端で最大倍率になるようだ。

【マクロレンズとマクロ機構搭載レンズの違い】

マクロレンズ。ソニー 50mm F2.8 Macro で最短撮影距離で撮影

マクロ機構付きズームレンズ。シグマ 17-70mm F2.8-4.5 DC MACRO を焦点距離50mmで、最短撮影距離で撮影

標準ズームレンズ。ソニー AF DT ZOOM 18-70mm F3.5-5.6D を焦点距離50mmで、最短撮影距離で撮影

手軽にマクロ撮影を楽しめるクローズアップレンズ

マクロレンズを購入するほどではないというなら、クローズアップレンズがお薦め。これは最短撮影距離を短くするフィルターで、手頃な値段が魅力。フィルター径が合えば、どんなレンズにも装着できる。描写力はマクロレンズに比べると劣るが、どのレンズでも使えるため、例えばマクロレンズはあまり得意ではない広角マクロなども楽しむことがができる。ただし、マクロレンズはピントが近影から遠景まで合うが、無限クローズアップレンズは近距離のみにピントが合い、遠くの被写体には合わないという制限がある。また、広角側ではケラレが出る場合があるので注意したい。

ケンコー MCクローズアップレンズNO.2

クローズアップレンズを使い、焦点距離18mmで撮影。広角でのマクロ表現が楽しめる