初来日した米Adobe Systemsのティム・コール氏。彼は世界中を飛び回り、InDesignの普及に努めている

日本でもユーザーが増えつつある「InDesign」。東京の青山TEPIAホールで開催されたレイアウトソフト「Adobe InDesign」のユーザーのためのイベント「InDesignコンファレンス2008 東京」において、セッション「InDesignの最新海外事情」が行われた。

同セッションの冒頭で、InDesignのエバンジェリストとも言える「Techart International」のダイアン・バーンズ氏が、ティム・コール氏を紹介。ティム・コール氏とは、米Adobe SystemsのInDesignシニアエバンジェリスト。InDesignとそのツールセットをさまざまな出版社に紹介している。コール氏の「海外、特に欧米ではその9割がInDesignに乗り換えを行っている」という発言から本編がスタートした。詳細は以下の通り。

「ビジネスウェーク」の事例

最初の事例はアメリカでポピュラーなビジネス誌「ビジネスウェーク」の事例。「InCopy」とInDesignをうまく使いつつ、ドイツの「K4」と「Fatwire Content Server」によるWeb配信までの効率化についての話があった。今までは印刷物が出来上がってからWebに配信するまで数時間を要していたのが数分までに短縮されたという。

「Showtime」の事例

続いて紹介されたのがケーブルTV局「Showtime」での事例。60人のデザイナーが常駐する同社では年間2500~3500冊にも及ぶ印刷物を制作しているが、InDesignに変更した事で生産性が向上した事を強くアピール。クリエイティビティにも大きな影響を与えた。特に「XMP」によるメタデータをうまく使った自社開発のアセットマネージメントシステム等を駆使して作業の効率化を図っており、その効果は絶大だ。XMPとは、ファイルに埋め込まれたテキストのタグ情報で、これを参照し、管理する事で自動組版等にも応用できる便利なタグのことである。

「Northcliffe」の事例

次の事例はイギリスの新聞社「Northcliffe」。「InDesign CS3」と「InDesign Server」を駆使して広告のテンプレートを作成する事で大幅なコストダウンを実現させた事例を紹介。広告テンプレートを変数データで操作し、カスタマイズされた広告を効率よく作成できるシステムを組み上げた。その結果40万ドル近い売り上げ増が実現できたという。

「Encyclopedia of China」の事例

最後に紹介されたのは中国の「Encyclopedia of China」。同社では、32冊にも及ぶ百科事典において、6000本の記事、3万点に及ぶ画像やイラスト、1000枚近い地図データを掲載している。これを「InDesign CS2」とInDesign Server、自社開発のデータベースと連携してわずか20人のデザイナーで完成させたという。しかも一日に数百ページのレイアウトが可能だったといい、いかに効率よく作業が進められているかを強調していたのが印象的だった。

「日本も世界のInDesignコミュニティのひとつ」と強調していたダイアン・バーンズ氏

InDesignの日本語開発チームにいるナット・マッカリー氏。日本に留学していた経験を持ち、今回通訳を担当した

日本では、まだまだ使われ始めたばかりという感もあるが、新聞社等ではInDesignで独自のシステムを組んで効率アップに成功している事例もある。また、実際にこれらの大規模なシステムは個人レベルで開発できるものではないが、日本でもソリューションベンダーが増えてきている事から、大手出版社ならそれに見合ったシステムが組める可能性もある。コンテンツ事業者にとって、今後このような事例が重要になってくるのは間違いない。DTP業界の未来と希望が見えてくるセッションであった。