写真のアンプを見てほしい。編集部から「面白いアンプがあるので」と送られてきたものだ。一見、城下工業の「SOUND WARRIOR」シリーズの真空管アンプ「SW-10」のように見える。ところが、SOUND WARRIORのラインナップには、送られてきたアンプは存在しない。このアンプは、USB入力を備えた真空管アンプなのだ。使用されている真空管はSW-10と同じで、6BQ5と12AX7を使ったシングルパワーアンプだ。ただ、SW-10にはあったPhono入力が省かれており、その代わりにUSB入力が装備されている。しばらくして編集部から連絡があり、このアンプは、フックアップのVital Audioシリーズ「VA-20T/USB」というモデルだということが判明した。

右の写真がUSBポート部分

SW-10もVA-20T/USBも知らないという人のために、簡単にスペックを記しておく。VA-20T/USBの入力端子はUSB以外にCD/AUX/MDの3系統。CDとMDはRCAピンプラグ、AUXはフロントに装備されたステレオミニジャックだ。出力はMDのREC OUTとサブウーファー用のプリアウト端子、ヘッドホン端子を装備する。ヘッドホン端子もステレオミニジャックだ。トーンコントロール機能も備えているが、トーンコントロール部分をスイッチで切り放すことも可能となっている。最大出力は3.2W×2(1kHz、歪率10%)となっている(SW-10では1.6W×2)。スピーカーにはJBLの4305HWXをつないでみた。ソースは、せっかくUSBポートがあるので、ノートPCを接続してそこからMP3形式の音楽ファイルを再生してみる。

実際には、スピーカーはスタンドに設置して聞いているのだが、撮影のため並べておいている

スピーカーのコネクターにはプッシュ式のターミナルが使用されている。あまり太いケーブルは入らない

機器を接続し、アンプの電源を入れる。電源は上がオフで下がオンだ(普通は逆の場合が多い)。電源を入れると、ゆっくりとヒーターが点灯する。真空管ならではの待ち時間だ。

暖まってきたところで、CS/USB切り替えスイッチをUSB側に。しばらくすると、PC側で新しいUSBオーディオデバイスとして認識される。なお、VA-20T/USBはUSB端子を装備しているが、USBホスト機能を装備しているわけではないので、USBポートにデジタルオーディオプレーヤーなどを接続しても再生することはできない。

スイッチを入れると、ヒーターが点灯し、ほのかに光り出す

というわけで、再生スタート。筆者はオーディオ評論家ではないので、このアンプの音質的な部分に関しての評価に関しては、参考程度にとどめてほしい。まず、「Spyro Gyra」の「Point of View」というアルバムから「No Limits」をかけてみる。ストリングスがなかなか気持ちよく聞こえる。ただしアルトサックスの低い部分は若干こもり気味に感じられるところがある。続いて「Tom Petty & The Heartbreakers」の「Southern Accents」から「Dogs On The Run」。この系統の80年代のロックの音は、当時の音が良く再現されていると思う。さらに調子に乗って「Kraftwerk」の「Tour De France Soundtracks」から「Tour De France 03 - Version 2」。尖っていない感があるが、まぁ、こういうのはデジタルアンプで聞くのが筋というものだろう。

何曲か聞いてみたところ、スピード感があるというわけではないのだが、中低域の量は出ているという印象だ。ロック系の音楽では、厚みがある良い印象を与えている。 また、最大出力が3.2W×2と普通に販売されているプリメインアンプと比べると1/10以下という低い数値なのだが、別にこれで出力が不足ということは感じられない。ただし、4305Hは89dB(2.83V/1m)とけっこう能率が良いスピーカーだ。スピーカーの種類によってはもの足りないというケースもあるかもしれない。

1点だけ気になったのが中低域の音の出方だ。4305Hは、決して低域の出るスピーカーではないが中低域が厚く出ている。そこで、トーンコントロールを調整して、少し低域を抑え気味にしてみた。トーンコントロールをオンにして低域のノブを時計の針の9時の位置ぐらいに下げると、満足できるバランスになった。ただ、トーンコントロールをオンにしたときとオフにしたときとで高域の出方が若干変わるように感じられる。できれば、トーンコントロールはオフにして使いたいところだ(4305Hならばスピーカー側のアッテネーターを絞ればよいのだが)。

VA-20T/USBのオプションとして設定されているスピーカーは、「SW-S10」という、高さ240mm×幅150mm×奥行き160の小型2Wayスピーカーだ。ということは、このサイズの小型スピーカーに合わせて低域のセッティングを決めている可能性がある。というわけで、かなり古いスピーカーだが、4305Hと同じJBLのJ520Mというスピーカーを接続してみた。J520Mは12cmウーファーを搭載したコンパクトな2wayバスレススピーカーだ。結果だが、4305Hをつないでいたときと比べて、中低域のやや過剰な厚みもなく、4305Hでは若干こもって聞こえた部分も、より自然なクリアな感じのサウンドとなった。やはり、コンパクトなスピーカーとの組み合わせのほうが、うまくバランスが取れるようだ。

コンパクトなスピーカーを接続してみると、ナカナカ良いバランス

実際に聴いてみた感想だが、VA-20T/USBは、「真空管だから」とか雰囲気を楽しむというだけでなく(もちろんそういう要素もあるだろうが)、普通にエントリークラスのアンプとして見ても、決して悪くはない選択だと思う。