ガートナー リサーチ バイスプレジデント フィリップ・ドーソン氏

ガートナー ジャパンが16、17日に開催した「ITインフラストラクチャ & データセンター サミット2008」において、ガートナー リサーチでバイスプレジデントを務めるフィリップ・ドーソン氏は、「クラウド・コンピューティングは次世代データセンターが生んだ当然の帰結であり、CIOやITマネージャーは、ただちに戦略的ソーシング・プランの策定に着手すべきだ」と語り、新たなコンピューティング・リソースの提供形態に合わせて、ユーザー企業が戦略的な取り組みを行っていくことの必要性を強調した。2日目に行われた「クラウド・コンピューティングのリアリティとデータセンターへのインパクト」と題する講演の中で明らかにしたもの。

ドーソン氏の専門は、ITインフラストラクチャ、サーバ/プラットフォームの仮想化。講演では、データセンターにおけるテクノロジーの動向を中心に、関心が高まっているクラウド・コンピューティングの展望を示すものとなった。同氏はまず、クラウド・コンピューティングには、さまざまな"神話"が生まれていると指摘。それは、例えば、「クラウドはまったく新しい革命である」、「各ベンダーがそれぞれのクラウドを持っている」、「SaaSはクラウドである」、「インターネットやWebはクラウドである」、「クラウドから何でも手に入れる」、「クラウドはプライベート・ネットワークとは相容れない」──などといったものだ。同氏によると、こうした神話は、あてはまる部分もあればそうでない部分もある。

「例えば、クラウドが革命というのはまったくの神話だ。Webサービスの技術やサブスクリプション形式でのソフトウェア提供は従来から存在していた。一方、プライベート・ネットワークと相容れないという点については、社内と社外とでリソースの利用方法をどう切り分けるかによって評価が変わってくる。社内でクラウド環境を作ることもできれば、インターネットの外部リソースだけを利用することも可能なためだ」

そのうえで、ドーソン氏は、ガートナーによるクラウド・コンピューティングの定義として、「大幅に拡張可能なIT関連機能が、インターネットにより"サービスとして"複数の外部顧客に提供されるコンピューティング・スタイル」を紹介した。この定義に基づくと、「サービスの消費者は、サービスが何をしてくれるかだけを考えていればよく、サービスがどのように実行されるかを気にかける必要はない。つまり、企業にとっては、サービス・レベルをどう実現し、それを自社の環境にどう適用していくかを検討することこそが重要ということだ」との認識を示した。

ガートナーによるクラウド・コンピューティングの定義と4つの特徴

クラウド・コンピューティングをめぐるビジネスや技術の動向。ドーソン氏は「当然の帰結」と主張する

企業が検討を加えるための条件として、ドーソン氏が挙げるのが、クラウド・コンピューティングの特徴となっている、調達モデル、ビジネス・モデル、アクセス・モデル、技術モデルという4つの属性の変化だ。すなわち、クラウド・コンピューティング環境が整備されていくと、従来モデルと比較して、調達モデルについては、「資産を購入し、技術アーキテクチャを構築」することから「サービスを購入」するかたちへと変化する。同じように、ビジネス・モデルについては「固定資産/間接費への支払い」から「従量制での支払い」へと、アクセス・モデルについては「社内ネットワークやイントラネット上の企業クライアント」から「インターネット上のすべての機器」へと、技術モデルについては「シングル・テナントによる静的(static)で非共有(nonshared)な基盤」から「マルチ・テナントによる動的(dynamic)で、拡張性(scalable)と弾力性(elastic)があり、マルチカスタマーに対応した基盤」へとそれぞれ変化する。

「こうした変化は、サービスを提供するプロバイダーごとにそれぞれの取り組みとして進められているため、利用する場合のアプローチは異なる。例えば、グーグルは、メールやスケジュールのようなアプリケーションの提供であるため、それらを"インフラ"として利用するかたちになる。また、アマゾンのように、ストレージ・サービスやサーバ・サービスといった"キャパシティ"の提供である場合、短期で開催するイベントのWebサイトで一時的に容量の不足分を補うといった、戦術的なアプローチをとることになる。ユーザー企業は、今後、デリバリー形式はどの分野に適しているか、サブスクリプション形式はどの分野で適用するか、求められるサービス品質はどの程度かなどを検討していく必要がある」

一方で、同氏は、クラウド・コンピューティング市場のプレイヤーについて、ヤフー、フェースブック、アカマイ、セールスフォース・ドットコムといったSaaS(Software as a Service)サービスを手がける企業群に加え、サン・マイクロシステムズ、マイクロソフト、EMC、IBMといったクラウドのインフラを提供する企業群が成長を続けていると説明。それに歩調を合わせるように、データセンターの環境も、仮想化技術やポリシーベースのプロビジョニング、ワークロード最適化といった技術を使った次世代型へと変化していることを指摘した。

「クラウド・コンピューティングは、標準化、仮想化、自動化、サービス指向化といった次世代データセンターが生み出した当然の帰結と言える。現在はまだ揺籃期にあるとはいえ、今後5年間で着実に進歩し、改善を続けていくことになろう。そして、そうしたなかでは、ソーシング戦略も、数多くの選択肢のなかから、より細かく、ダイナミックに行っていく必要がある」

クラウドを利用する際の判断材料として示された図

クラウド・コンピューティングの今後の展望

そのうえで、ドーソン氏は、CIOやITマネジャーの今後の課題について、3段階に分けて提案した。まずは、ただちに着手すべき事項として、インフラストラクチャとオペレーションの戦略的プランを策定することだ。あわせて、ビジネスと連携させるかたちで、自社の進捗状況を評価するメトリクスの開発に着手することを訴えた。また、近い将来に実行すべき事項としては、そうした戦略的プランの実行、および、ソーシング・チームの組織化とクラウド・コンピューティング環境をテストするための担当者の選出だ。

そして、中長期的には、ビジネス価値を生むサービスについて、自社がクラウド・コンビューティングのプロバイダーになることをも視野に入れる。その一方で、ビジネス価値が低いサービスや、プロバイダーとしてサービスを提供するには及ばないもの、カスタマイゼーションが必要ないものなどについては、社外のクラウド・コンピューティング・プロバイダーを最大限に利用すればよいとした。