2008年6月2日に筑波大、東大、京大の3大学に設置されたT2Kスパコンが稼動を開始した。3大学合計の計算ピーク性能は約300TFlopsであり、単純なFlops値の比較では、地球シミュレータの7倍あまりの計算能力が、大学を中心とする研究者の使用に供されることになり、科学の諸分野での研究の加速が期待される。

T2Kは筑波大、東大、京大と北から所在地順に頭文字を取ったもので、この3大学が共同で、調達すべきスパコンの仕様を決定したのでこのような命名になっている。これまで、大学のスパコンは、要求する性能と価格などを示し、それに対してメーカーがハードウェア構成を提案するというやり方が普通であったが、3大学共通仕様という購買パワーを活かして、大学側で欲しいスパコンの仕様を提示し、それにあった製品を持って来いという調達となった。

シミュレーションが理論と実験と並ぶ、科学の第三の柱となっており、大学の計算センターでの大規模シミュレーション、大量のデータ処理に対する計算需要が増大してきている。また、利用分野が広がってきており、ベクトルスパコンを使ってきた従来のスパコンユーザだけでなく、これまでスパコンを使ってなかったユーザにも使い易いシステムでなければならない。また、スパコン専用に開発したものは高くつくので、出来るだけ汎用の部品を用いて、一定の予算で、より高い性能のシステムとしたい。

そこで、ハードウェアは市販品のCPU、市販品のネットワーク、OSや通信ライブラリも標準品を使い、浮動小数点演算だけでなく、大規模整数問題を実行するユーザも含めてオープンに広い範囲のユーザに使ってもらうというオープンポリシーのもとに、次のような仕様を策定した。

  • 計算ノードあたりの性能が145GFlops以上のマルチソケットx86アーキテクチャ
  • 計算ノードあたり5GB/s以上のマルチリンクネットワーク
  • 計算ノードあたり32GB以上のメインメモリ
  • 計算ノードあたり130GB以上のローカルディスク
  • 計算ノードあたり40GB/s以上のメモリバンド幅
  • OSはLinux、コンパイラはFortran、C、C++、通信はMPI

この仕様にはどこのCPUを使えとは指定していないが、x86アーキテクチャで高性能となると、IntelとAMDしか解がない。しかし、Intelは今年の終わりにならないとNehalemが出せないので間に合わず、事実上、4チップのQuad Core OpteronをHyperTransportで接続したシステムしか解がないという仕様である。

この仕様で3大学が公募を行い、入札を経て、今年の1月~2月に受注業者が発表され、東大は日立、京大は富士通が受注した。東大は従来から殆ど日立のスパコンシステムを購入し、京大は富士通のスパコンシステムを購入しているので、これは理解できる。ハプニングは筑波大で、筑波大は、住商情報システムが主契約者となり、米国Appro社のサーバとFlextronix社のInfiniBandスイッチなどのハードウェアを納入し、クレイジャパンがシステム構築と保守を行うという形態で受注した。筑波大は、かつてTop500で世界一になったCP-PACSを日立と共同開発し、現有のPACS-CSも日立と共同開発というように日立との付き合いが深い筑波大が、Appro社のシステムを選択したのにはちょっと驚かされた。後述のように、京大のシステムは大規模SMPシステムを含んでいるので比較が難しいが、京大より予算の少ないと言われる筑波大が、ピーク性能の高いシステムを入れられたのは、やはりAppro社の方がコストパフォーマンスが良かったのであろう。