SAPジャパンは、環境対応管理ソリューション、製品についての戦略を示した。EUが制定した化学物質規制「REACH(Registration, Evaluation, Authorisation and Restriction of Chemicals) 」などにより、環境安全衛生に対する法令順守、内部統制の強化を求められる企業の需要に応え、既存のERPとの連携するソリューションを提示、市場での積極展開を図る。

REACHでは、新規/既存を問わず、年間の製造輸入量が1トンを超えている化学物質を対象に、従来、政府が実施していたリスク評価を、事業者の義務に変更、情報を登録させる。サプライチェーンを通じた化学物質の安全性や取扱いに関する情報の共有を強化、成型品に含まれる化学物質の有無や用途についても、情報を求めている。

SAPジャパン インダストリー戦略本部 化学・石油・ガス産業担当部長 安並裕氏

このような状況の下、同社が提案しているソリューションの中心となるのは「SAP EH&S(SAP Environment, Health & Safety)」だ。この製品はすでに10年ほど前から市場に出ており、1,400社以上が採用している。だが、同社によれば「データやシステムは部門、拠点などに散在し、それら部門、拠点ごとの管理手法が異なる」(同社 インダストリー戦略本部 化学・石油・ガス産業担当部長 安並裕氏)など雑然とした状況にあるが、今後は「データを一元管理し、どこからアクセスしても、必ず必要なデータを取り出せるようにする」(同)ことを目指す。

「SAP EH&S」は6つのコンポーネントで構成されている。基本となるデータベースを軸に、レポート出力機能をもつ「基本データ&ツール」、製品属性の管理、物質量の追跡などを担う「製品安全」、災害記録、労働現場のリスク管理、労働者の健康管理との連携などを受け持つ「労働安全」、危険物の輸送や、その際の量的な制限といった取り扱いの管理などの機能を備えた「危険物管理」、そのほか「健康管理」、「廃棄物管理」がある。

化学物質情報の一元管理には「スペックマスタ」が活用される。スペックマスタは、任意の情報項目を定義し、化学物質についての属性情報を管理する。「例えば、シャンプーのような製品では、界面活性剤、油分といった特性にかかわる情報、人体への影響度など取り扱い情報」(同)と、製品、原材料の情報を束ねる「品目マスタ」を関連付け、特定の製品/原材料にまつわる化学物質情報を参照することができるという。

化学物質そのものの実際の量を捕捉する機能では、製造、購入、販売されたものに対し「REACH規制に該当する物質を、組成レベルで追跡することができる。有害物質などについて、含有量を測定し、しきい値を設定して、アラートを出すことも可能」(同)になっている。

また、MSDS(Material Safety Data Sheet:化学物質等安全データシート)を35カ国語で自動生成、出力できる機能も備えており、同社では「グローバルに対応することができる点が特に評価を受けている」としている。

地球温暖化防止や水資源保護を支援するものとしては「SAP Environmental Compliance(EC)」がある。ECは、工場など現場での、電力、ガス、重油などの使用量から、大気中への温室効果ガスの排出状況を把握、監視する。生産拠点を海外に設置している企業は、国ごとに異なる、排出量計算の要素に準拠して対応しなければならないが、その企業グループでは、拠点のある国にかかわらず、グループ全体としての排出量を計測する必要にも迫られる。このような場合ECでは「二酸化炭素に換算して、どのくらい温室効果ガスを排出しているかを計算できる」(同)。ECはすでに57社が採用しているという。

REACH規制に対応するための包括的なソリューションとしては「SAP REACH Compliance」が用意されている。SAPの既存のERP、CRMなどとの統合を図り、化学物質情報の登録から、化学物質の数量捕捉、使用状況、在庫量などのデータの管理、サプライチェーンにかかわる領域の管理、さらには化学物質安全管理報告書、MSDSなどの文書管理にいたる、全体の流れを管理する。REACHの登録作業に用いられる「IUCLID5」と呼ばれるソフトに対応している。

安並氏は「環境ソリューションは、既存のERPと連携し、販売、購買、生産、計画、人事などの機能と統合、物流のデータと関連付けができる。35カ国語に対応し、グローバルにデータを一元管理することが可能だ」と指摘、SAPの既存ソリューション、アプリケーションとの親和性とグローバル対応の利点を強調した。

日本市場では環境ソリューションの普及が未だ進んでいないことから「まず、先進的な導入企業からの声を聞き、フィードバックして、随時、開発に生かしていきたい」との考えで「EH&Sを主軸に拡販を進め、態勢を整え、今年から2010年にかけて、戦略的に展開していく」(同)方針だ。