【レポート】

イノベーションはパートナーと共に - SAPが取り組むビジネスネットワーク

    末岡洋子  [2008/06/05]

    SAPグローバルエコシステム・パートナーグループ、パートナーオペレーション・サービス長 Joerg Jung氏

    パートナー戦略はどのソフトウェアベンダにとっても重要。これは、最大手の業務アプリケーションベンダである独SAPとても、例外ではない。黙っていても売れた時代は終わり、パートナーが戦略として重要になった。現在、SAPはパートナーによるエコシステムを重視している。

    SAPでエコシステムを担当するJoerg Jung氏(SAPグローバルエコシステム・パートナーグループ、パートナーオペレーション・サービス長)は、「SAPのシェアが伸びている理由は、エコシステムにある」と言い切る。SAPが5月に独ベルリンで開催した「SAPPHIRE 2008 Berlin」にて、Jung氏にSAPのエコシステムについて話を聞いた。

    パートナープログラムを拡大

    SAPには"グローバルパートナー"というパートナー枠がある。サービス、ソフトウェア、技術など、各分野の企業約25社が形成するもので、SAPとグローバルかつ戦略的な関係を結んでいる。Jung氏は、このグローバルパートナー以外のすべてのパートナー企業を担当している。

    Jung氏は、SAPエコシステムを構築するものとして、パートナープログラム、認定プログラム、デリバリの3つから説明した。

    まずはパートナープログラムからみていこう。Jung氏は、2005年に開始した「SAP Partner Edge」を紹介、「パートナー企業がSAPとの関係から最大の価値を得てもらうためのフレームワークとなるもの」と説明した。

    SAPは今年5月はじめ、Partner Edgeを拡大し、これまで再販事業者だけを対象としていたのを、サービスパートナーとソフトウェアパートナーにも拡大した。同時に、買収した仏Business Objectsとの統合の一環として、Business Objectsのパートナーに対しても、SAPのプログラムに参加するよう呼びかけている。Business Objectsには約85社のパートナーがあり、このうちの10社は既存のSAPパートナーでもある。純粋には75社が加わることになるという。

    2つ目が認定プログラムだ。約1,700社いるISVパートナー向けとして、エンタープライズSOAの下で進めてきたSOAベースの認定プログラム「Powered by SAP NetWeaver」がある。NetWeaverをベースとして開発したソリューション、NetWeaverを利用してSAPと統合したソリューション、NetWeaverを利用しSAPアプリケーションとの連携可能なソリューションと、レベルに応じて用意している。これまで約2400種類のソリューションが認定されたという。

    3つ目がパートナーサービスデリバリだ。Jung氏によると、グローバル組織として機能するよう、世界3箇所に拠点を置いて展開しているという。

    パートナーサービスには、以下の4つの要素がある。

    1. 登録作業からポータルなどのコンテンツまで、インフラ管理となるパートナーの関係管理
    2. 販売・営業支援
    3. マーケティング支援
    4. 技術エンパワーメント

    「1から3までは、すべてのベンダが提供しているもので、正直なところ、SAPを含めどのベンダもなんら違いはない。だが、4はSAPしか提供していない独自のもの」とJung氏。技術エンパワーメントとは、パートナー各社に技術に関する専門知識を提供するものだ。「"エンタープライズSOAって何?""NetWeaver環境はどうやってうごくのか?"といったパートナーからの技術に関するあらゆる質問にこたえる」と説明する。

    Business Objectsとの統合

    Business Objectsとの統合は、いくつかのレベルで進めている。認定プログラムでは、SAPメソドロジに基づく認定プログラムを拡大、すでに最初の1社が認定を取得したという。

    チャネルパートナーでも進めている。「Business ObjectsとSAPのチャネルパートナーは非常に異なる」というJung氏の言葉通り、SAPのチャネルパートナー2,400社とBusiness Objectsのチャネルパートナー1,000社のオーバーラップはほとんどなかった。これを統合していくわけだが、単純にお互いの分野に拡大するというわけにはいかない。SAPパートナーがBIに拡大することは比較的容易だが、BI側からERP側への拡大は難しい。そこで、Business Objectsのパートナーには紹介プログラムを開始した。SAPソリューションを求めている企業を紹介し、これが契約に至った場合にライセンス料の5%をコミッションとして受け取れるというものだ。すでに最初の取引が成立するなど、出足は好調のようだ。

    フォーカスは顧客と共同イノベーション

    このように、さまざまな分野、さまざまな地域の企業と多角的、多層的にパートナー戦略を展開しているわけだが、その舵取りは非常に難しそうだ。その指針となるものを、Jung氏は「顧客中心と共同でのイノベーション」と語る。

    顧客中心とは、顧客を中心に据えたパートナーエコシステムの展開。「多くのベンダが(パートナーエコシステムを)自分たちの営業を拡大するものとして設計している。SAPは違う。顧客が必要としているのは何かを軸にプログラムを立て、実践していく」(Jung氏)。

    NetWeaverやビジネスプロセスプラットフォームはそれを実現する技術となる。「SAPのソリューションとパートナーのソリューションを1つの方程式と考えている」とJung氏。顧客は、(SAPに加えて)少なくとも1社のパートナーソリューションを導入しているのが現実。SAP1社ではすべてを提供できないのだ。

    サービスパートナーもしかりだ。SAPがすべての顧客のところにいって導入/実装するためには、25万人を新たに雇用する試算となる。これは不可能だ。小さなニッチ市場にはその分野に通じた専門家がいる。SAP単体では25種のメガ業種しかカバーできないが、パートナーの技術が加わることで、550種ものサブバーティカルソリューションに細分化して提供できる。「SAPの役割は、このようなパートナーをオーケストレーションしていくこと」とJung氏は考えている。そうすることで、共同でのイノベーションが推進され、新しいソリューションが生まれる。

    3つのコミュニティ活動

    この「オーケストラ」は、具体的にはコミュニティ活動が調整役を担う。

    コミュニティとしてSAPには、

    1. SAP Developer Network(SDN)
    2. Industry Value Network
    3. Enterprise Service Community

    の3本の柱がある。

    SDNは開発者向けで、登録者は約120万人。このうちの80%が顧客やパートナー企業という。ベストプラクティス共有の場を目指しており、あるSDNメンバーが質問をした場合、平均17分後に別のメンバーが回答しているという。「レスポンスは非常に高速で、知識を得る効率のよい場所になっている」とJung氏は胸を張る。

    2は招待ベースのコミュニティだ。その業界に特化した次世代ソリューションの開発を促進するのが狙い。石油業界であれば、石油企業のほかに石油開発サービス企業、石油業界に強いISVなど、その業界が関係する企業に参加してもらうことで、問題点や需要を洗い出す。「SAPの将来のソリューションポートフォリオを定義する場」とJung氏はたとえる。

    3は、SAPのエンタープライズサービスを定義する場所となる。SAPは現在、安定したコアシステムを土台とし、強化パッケージとして追加機能を提供しているが、この強化パッケージの52%がエンタープライズサービスコミュニティを通じて定義されたという。

    Jung氏は最後に、この3つを拡張するものとして、Business Process Expert Communityも紹介した。

    「約15年前、R/3を出した後、しばらくは受身だった。SAPと提携したいという企業は多く、われわれの側ではパートナーとかエコシステムを重要視していなかった」とJung氏は振り返る。だが、クライアント/サーバーモデルが進化して、プラットフォームの時代に。この時代は、イノベーションとは共同で行うもので、協業と競合が入り混じる時代だ。

    SAPは"エンタープライズSOA"の次に"ビジネスネットワーク"を提唱しているが、SAP自身が膨大な数のパートナーとともに、ビジネスネットワーク形成に乗り出しているといえそうだ。

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