【レポート】

アートとロボット工学のマリアージュが生み出した機械生命体

    チバヒデトシ  [2008/06/03]

    anima machines。ラテン語に起源をもつanima=生命や魂の意味を持つ、そしてmachines=機械。anima machinesとは機械生命体を意味する。これまで数多くのアニメやSFでいろいろな形で描かれてきている存在だ。それはサイボーグが人の心を持つものだったり、機械になんらかの生命体が取り憑いたモンスターだったり、と創造者の数だけ形がある。チェ・ウラム氏の創り出すそれは、人型でもモンスターでもない。

    『Una Lumino』(2008)/319×476cm/Metallic material、machinery、metl-halide lamp、electric devices

    5月27日より、東京・谷中のギャラリー、SCAI THE BATHHOUSEで開催されている『チェ・ウラム「anima machines」』展(会期は6月28日まで)で展示されている作品は、一定の運動を繰り返す植物のようだったり、複数の生物の集団があたかもひとつの巨大な生命体のように動いているものもある。それらはまぎれもなく機械でできており、プログラムされて動いているのだが、どこか有機的な生物を思い起こさせる。

    谷中にあるSCAI THE BATHHOUSE。元は柏湯という銭湯だったものを、高い天井を持つ伝統的な銭湯建築を活かしたアートギャラリーとなっている

    チェ・ウラム氏は1970年ソウル生まれの韓国人アーティストだ。韓国と言えば、60年代に世界的な影響を与えたビデオアートの巨人、ナムジュンパイクがいるが、彼の影響からか韓国の現代美術界にはテクノロジーと密接な関係を持った作品が多いように感じられる。チェ・ウラム氏もまさにそうしたアーティストの一人と言える。1999年に中央(チュンガン)大学の美術修士号を取得し、おもに韓国国内で活動を行なっているチェ・ウラム氏は、高度なロボット工学の知識と豊富な経験に基づいて設計したアートの生命体を創造するアーティストとして、国際的に高い評価を得ている。

    チェ・ウラム氏

    これまで上海ビエンナーレをはじめ、世界各地で作品を展示しており、昨年の森美術館でのMAMプロジェクトにおける個展で展示され新鮮な驚きを与えた、浮遊する生命体「ウルバニュス」は記憶に新しい。チェ・ウラム氏の作品の多くは、金属素材や発光ダイオード、機械部品、電子部品を使い、緻密で繊細な彫刻的な手仕事を感じさせるフォルムにデザインされており、これらはコンピュータによって制御され、有機的で生物的な動きを見せる。時には光を放ち、時には鑑賞者に反応したようなインタラクティブな動きも見せる様は、まさに"いきもの"のそれだ。

    本展においてメインとなる作品が『Una Lumino(共に輝く)』。直径3mを越え、5mに迫ろうかという高さを持った円錐を逆さにした形を、機械でできた無数の"花"がそれをかたどっている。蓮のようなその"花"は基盤に取り付けられた6枚の半透明の花びらが光を放ちつつ、閉じたり開いたりしている。ある場所から次々に開いていったり、ランダムに開閉したり、または他の花の動きに呼応するように開き閉じる様は、植物の姿をしていながら、照明の落とされた展示室の海の中を動きまわる、魚の群れのようにも見える。はじめは、明滅する光と"花"が開閉する動きのインパクトに圧倒されてしまうが、静かに見続けていると、その動きには、なにか意味があるかのように見えたり、いきものの営みがあるように見える。これは錯覚なのか? それともわれわれの新しい仲間たる"いきもの"が未来世界に現出する事を予言しているのだろうか?

    チェ・ウラム氏は創造した作品="いきもの"に学名や生態を設定し、「機械生命連合研究所」の名義で発表する、というストーリーを用意している。チェ・ウラム氏はこのUna Luminoを、新たに発見された"巨大な蜂の巣の形をした機械生命の集合体"と定義しており、"個々の生命体の間の相互疎通体系を持っており、また集団的行動パターンを見せ"、また、"まるでフジツボのような姿形と動きを見せながら、固い口を動かして空気中の都市エネルギーを集めている"としている。

    Una Lumino。多くの花が開いた様はシャンデリアのようでもある

    Una Lumino。複雑な機械造形と手工芸的なフォルムが渾然一体となったデザインだ

    Una Lumino。ベース部分に取り付けられた基盤はそれほど複雑なものではなさそうだ

    無題の2作品のひとつ『Untitled (1)』は、センターに岩のような部分を抱え、これを中心に複雑なパーツが外側に向けて並び、これらを軸に円運動を行なうもので、あたかも太古の海を優雅に泳いでいた節足動物を思わせる。また、いまひとつの『Untitled (2)』には滑らかな曲線を持った金属パーツと歯車が幾重にも重ねられ、それらが複雑に円運動を繰り返している。電子顕微鏡をのぞいた世界にいる微生物や、雪の結晶の動きなどを想起させるとともに、曼荼羅を思わせるようでもある。この他、『Una Lumino』のためのドローイング2点が展示されている。

    ※Untitled(1)ならびにUntitled (2)の作品名には、(1)、(2)は付いていないが、便宜上付けている。

    『Untitled (1)』(2008)/171×39×68cm/Metallic material、machinery、electric devices(CPU board monitor)、stainless steel casting

    Untitled (1)。センターの岩状の部分はアンモナイトをイメージしている

    『Untitled (2)』(2008)/80×80×35cm/Metallic material、machinery、electric devices(CPU board monitor)

    Untitled (2)。規則的な動きが逆に有機的なものを感じさせる

    『Una Lumino』のパーツと全体像を描いたドローイング

    鴬谷や上野に近い下町、谷中でミスマッチなサイバー作品を見るという趣向でもいいし、テクノロジーが生み出したロボット工学のもうひとつの表現を見るという事でもいい。アートだと難しく考えるより、この作品の持つ神秘性、機械造形が生み出した美しさを感じ、作者の遊び心溢れるエンタテイメントとして楽しんでみてはいかがだろう?

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