【インタビュー】

東京大学大学院の松井孝典教授が語る - 宇宙・生命・地球・人類・文明

5 人間圏を救う"レンタルの思想"

    木全直弘  [2008/05/30]

    ――地球システムから負のフィードバックを受けることで、人間圏は、いずれ破綻する……。

    「具体的に、どういうふうに破綻していくかというと、我々が今もっている共同幻想が次々に破れていくということです」

    ――共同幻想ですか?

    「現生人類がそれまでの人類と異なる点のひとつは、言語を明瞭に話せることです。その言語能力を通して、外界を投影して脳の中に内部モデルを作るような生き方ができるようになった。その内部モデルを分かりやすく言い表せば、共同幻想」

    ――具体的な例を挙げていただけますか。

    「例えば、貨幣というのは共同幻想です。それ自体に価値があるというより、物と交換するために生み出された共同幻想ですよね。みんな、貨幣は物と交換可能だと思い込んでいる。そのような信頼があるから、みんな、安心してお金を貯めて生きてるわけ」

    ――はい。

    「ところが、地球システムから負のフィードバックがかかって、人間圏に流入してくる物が減ってくれば、いくらお金があっても物と交換できない、すなわち買えなくなる。すると、物との交換が可能だという共同幻想は破れるわけ」

    ――なるほど。

    「貨幣が物との交換に使えなくなったら、今の金融システムは成立せず、この人間圏の内部システムは必ず破綻します。というような種類のことが、いくらでも考えられるわけ」

    ――破綻に立ち至らないようにする術は、何かないものでしょうか。

    「今、世の中に見られる近い考え方で言えば、"スローライフ"ということですかね。地産地消であるとか。あとは考え方でいったら、革命的な考え方になっちゃいますね。例えば、所有に対する考え方なんかは、改めなきゃいけないわけ」

    ――と、おっしゃいますと……。

    「体にしたって、皆さん自分の体だと思ってるでしょ。でも、自分の体じゃないよね。生きている間、地球から借りてるだけだよね」

    ――地球を構成している物質を体内に採り入れて……。

    「元々地球を構成している元素の一部をたまたま体として利用している。我々が生きるときに身体という物が重要なんじゃなくて、それぞれの臓器が重要なんです。人体というシステムを構成する構成要素ですが、その臓器がそれぞれの機能を発揮して、人体というシステムを作ってる。重要なのは、その臓器の機能なんですよね」

    ――消化・吸収であるとか……。

    「心臓のポンプで血液を循環させるとか、脳で情報を処理するとかいった機能が重要」

    ――はい。

    「これはどういうことかっていうと、実は身体という物を所有するんじゃなくて、レンタルしてるということです。こういうふうに物事を考えない限り、地球システムと調和的な人間圏は作っていけない」

    ――なるほど。

    「こういう方向に動いていかなきゃいけないけど、これは基本的には資本主義経済とか市場主義経済とかと矛盾するよね」

    ――先ほどもちょっとお話に出ましたが、例えば江戸時代だと、領地にしても家屋敷にしても、所有しているのではなく、貸し与えられているだけですね。

    「そのころは、もともと所有なんて概念はない。みんなレンタルだった。加えて駆動力をその内部にもたないから、江戸時代に環境問題なんてほとんどない。これは地球システムと調和的な人間圏。そういうことを考えてみれば、わたしの言ってることはそんなに荒唐無稽じゃないんだけど」

    ――ところが、わたしたちが普段考えているのは……。

    「今という時点で、今という瞬間に認知できる空間領域で、全てのことを考えてるわけだ。それを137億年という時間と137億光年という空間スケールで考えれば、全然違ってくるでしょ……というふうに、発想できるかどうかですね」

    ――貴重なお話をありがとうございました。

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