【レポート】
独自のパフォーマンスで世界的に評価を得ている現代美術作家の折元立身(おりもと たつみ)氏の展覧会「折元立身―ドキュメント」が東京・青山のギャラリーvoid+において開催されている。会期は6月7日まで。ギャラリーでは2007年10月に折元氏が行ったアートとしてのピクニックを記録した『アートイベント"ピクニック"記録展』を行なっており、ビデオや写真、資料などを展示している。なお、会期中はパフォーマンスを行なった部屋をそのまま残し、模様を収めたビデオを上映するとの事だ。
折元立身という名前を知らなくとも「介護アート」というキーワードにピンとくる方は少なからずいるだろう。折元氏はナム・ジュン・パイク氏に師事し、前衛芸術活動であるフルクサスに参加するなど、1970年代から世界で活躍してきたアーティストだが、近年はアルツハイマーとうつを患った実母を看るために帰国。その母との生活を『ART-MAMA(アート・ママ)』と題し、2000年に原美術館において発表した。母に巨大な靴を履かせた「Small Mama + Big Shoes」(1997年)に代表されるユーモラスな作品からは、家族を介護する生活が、そしてたくさんのパンを顔に括り付けた『Bread Man(パン人間)』や母のツーショットを収めた「Bread Man Son + Azheimer Mama」(1996年)からは、折元氏の母に対する愛情が伝わってくる。
ART MAMAは2001年のベネチア・ビエンナーレでも注目され、折元氏の世界での評価がより以上に高まった。以降、次々に世界的なアート展に出展しており、つい先頃もブラジルのサンパウロ美術館で展覧会が開かれたり、このところ折元氏への海外からのオファーが次々に舞い込んでいるという。ある意味、日本では逆輸入の形で知られるようになったわけだが、横浜トリエンナーレへの出展をきっかけに、NHKの『にんげんドキュメント』に取り上げられたり、『介護もアート』(KTC中央出版刊)として出版もされるなど、一般にも知られつつある。アートそのものよりも、介護という側面から注目される傾向があるが、折元作品の独自性、折元氏の人柄などに惹かれ、ファンが急増している。
折元氏とは1980年代から親交があるという森美術館の館長である南條史生氏は、今回の展覧会のパンフレットにおいて「(ART MAMAでの折元氏の母に)様々な非日常的行為を演じさせることで、刺激を与え、脳の働きを活性化し、病気の進行を妨げる」と指摘した上で「彼がやっていることはすべてわれわれ人間の癒しと治療に通底している」としている。
本展を開催しているvoid+は決して広いギャラリーではなく、世界的に注目されているアーティストの展覧会の会場としては、物足りなさがあるのは否めない。最近では、アートが注目されているとか、アートビジネスが盛んだとか言われているが、結局のところ良質な作品は、数少ない現代美術を専門とする美術館や、こうした理解あるノンプロフィットのギャラリーが支えているのが現実だ。折元氏は「僕はヨーロッパなど世界ではたくさん声をかけていただいていますが、日本でさっぱりです」と言っていたが、これだけ支持する人がいれば、日本国内での折元氏の評価が高まるのも時間の問題と言えるだろう。
ギャラリーに展示されているアートイベント"ピクニック"は、マネの作品「草上の昼食」、1989年にハンガリーで起こった世界史上に残る「汎ヨーロッパ・ピクニック計画」、そして1971年N.Y.のソーホーにオープンしたGordon Matta-ClarkのFOODというアートコミュニティーのレストランなどから着想し、折元氏が住む川崎から世界の美術業界に向けて発信されたイベントだ。
また、オープニングパフォーマンスでは、折元氏が以前よりたびたび行ってきた動物とのパフォーマンスが行なわれた。ゲストとして登場した動物は、ラマのラッキーくんとフクロウの影虎くん。アンデスに多く生息する家畜であるラマは、近似種のアルパカなどで知られるように非常に上質な柔らかな毛で覆われた動物であり、国内では滅多に見かける事がない。猛禽類であるフクロウも間近にする事がない事から、パフォーマンスが始まる前から会場の視線は動物たちに釘付け。ラッキーくんが座ったり(ラクダの仲間なので、前足を折り畳んで座る)、まつげが長くぱっちりした目が多いかぶさった毛からのぞかれると、カワイイと歓声があがったりと、なんだか違った雰囲気に。
それでも折元氏が登場し、まずはボードを使ったパフォーマンスを開始すると、一気に折元氏の一挙手一投足に熱い視線が集まった。いくつかの小さな白いボードに画面を見ずにペンで図形を書いて行き、書き終えたボードを参加者に持たせる。続くパフォーマンスは、会場に壁にいくつも立てかけられていた色とりどり、さまざまな柄の旗を使ったもので、旗を掲げたり、静かにゆっくりと振ったりして、ボード同様に参加者に手渡していった。そしていよいよ、ラッキーくん、影虎くんをパフォーマンスに巻き込んでいく。仲がいいんです、と言っていた折元氏は、旗を持ったまま、ラッキーくんを静かに引き寄せ、顔を近づけると、並んだ顔がどことなく似ているからか、会場から笑いが。ラッキーくんは折元氏をなめる一幕もあったが、影虎くんはフクロウだけに目をぱちりともせずに、たまに触れる旗にも我関せずだった。
パフォーマンス終了後、南條氏をはじめ、関係者が挨拶を行なったが、どうしても話題が動物たちに集まってしまい、折元氏は「今日は何をやってもラッキーと影虎の話になってしまう。(僕が)主役なのに」と笑いながら、嘆いていた。ART MAMAにしても、動物たちとのパフォーマンスにしても、折元氏の表現には、わざとらしさのない"笑い"があり、だれもが癒されるなにかがあるのだ。
| 展覧会 | 折元立身—ドキュメント |
|---|---|
| 会期 | 2008年5月24日(土)~6月7日(土) |
| 会場 | void+ 東京都港区南青山3-16-14-1F |
| 営業時間 | 火~金 14:00-19:00 / 土 12:00-19:00※月、日、祝日休み |
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