【レポート】

「モノクロームのトーンはエロティック」 - 森山大道の軌跡を追う展覧会

    新井早苗  [2008/05/19]

    森山大道(もりやまだいどう):1938年生まれ。商業デザイナーを経て、1963年にフリーの写真家として活動を始める。1965年より写真雑誌などを舞台に作品を発表し続け、1967年『にっぽん劇場』で日本写真批評家協会新人賞受賞。1968~1970年には多木浩二氏、中平卓馬氏らとともに写真同人誌『プロヴォーク』に参加。「アレ、ブレ、ボケ」と形容される荒々しい写真表現で日本の写真界に大きな衝撃を与えるなど、現在に至るまで国内外にて精力的に活動を続けている

    写真家・森山大道と聞けば、「アレ、ブレ、ボケ」と形容されるハイコントラストや粗粒子画面の荒々しい写真表現を思い浮かべる人も多いであろう。「写真とは何か」を問い続け、いまや世界的に有名となった同氏の初期代表作『にっぽん劇場写真帖』(1968年)から最新作『ハワイ』(2007年)までの軌跡をたどる回顧展「森山大道展 I. レトロスペクティヴ1965-2005/II. ハワイ」が東京都写真美術館(東京・恵比寿ガーデンプレイス内)にて13日より開催されている。開催期間は6月29日まで。

    同展は「I.レトロスペクティヴ1965-2005」と「II. ハワイ」の2部構成となっており、それぞれ単独の展覧会として鑑賞できるのが特長だ(最下部表参照)。3階の展示スペースにて開かれている「I.レトロスペクティヴ1965-2005」では、東京都写真美術館収蔵作品を中心に森山氏の代表作品と未発表作品を合わせた約200点を紹介。森山氏がデビューした1960年代、写真への問いをラディカルに突き詰めた1970年代、スランプからの再起を果たした1980年代、そして躍進を続ける1990年代から現在に至るまでの変遷を時代ごとに追う構成となっており、"写真家・森山大道"と初めて出会う人にもすんなりと入っていける展示内容といえる。

    3階展示風景。同フロアの作品セレクトには同美術館の学芸員である岡部友子氏が関わっており「自分の作品を他者に委ねるのは好きですね。人の意識とかさまざまなものを通して生き返る作品がある」と森山氏は語る

    『にっぽん劇場(戸波龍太郎一座)』 1966年。寺山修司氏の指名で寺山氏の文章に添える写真を芝居小屋や大衆芸能で撮り始めた頃の作品

    『プロヴォーク』第2号より 1969年。当時の森山氏は、写真家・中平卓馬氏、批評家・多木浩二氏らとともに"写真が言葉を挑発する"という問題提起を同人誌『プロヴォーク』を通して行っていた

    一方、「II. ハワイ」と題された2階展示スペースでは、森山氏の最新作である写真集『ハワイ』に掲載された300点をもとに森山氏自身が厳選した作品が、未発表作品と合わせて約70点展示されている。中でも特大サイズにプリントされた作品の圧倒的な迫力が見物といえるだろう。

    大型プリントが多く出品される2階展示風景。今回で『ハワイ』シリーズは美術館初展示となる

    『ハワイ』 2007年。ハワイ島、オアフ島を舞台として2004年より約3年かけて撮影されたという作品たちは、現地の神秘的な自然と人々の日常を雄弁に物語っている

    森山氏自身が、一度撮っておきたかったという"ハワイ"。彼にとってのハワイは「日常の撮影のルーティンワークの側に沿って、ひそやかに流れるもう一本の水脈のような感じとしてあった」場所なのだという。「日本や日本人とは、決して無縁ではない南の島の明るみと暗がりを、モノクローム・フィルムに写しておきたかった」と今回の展覧会に関連して刊行された書籍『森山大道論』(淡交社)のあとがきに森山氏は綴っている。

    内覧会にて自身の作品について語る森山氏

    森山氏は同展内覧会にて、モノクロ写真を好むのは自身の体質という前置きとともに「僕にとってモノクロームのトーンはエロティックにみえるんだ」と穏やかに語った。路上にて日常の断片をスナップショットに収める作品で知られる同氏だが「街中であまり考え込んで撮ることはしないですね。僕の場合は、自分の感覚や感情がそのままシャッターになっている」と話す。すれ違いざまに出合ったものを捉えていくそのスタイルを"スリ的な視線・スリ的な行動"と表現し、はにかむ姿が印象的であった。

    近年は海外での撮影や展覧会なども多くなっていることから「今は東京に戻りたいと思っている。写真の場所として"東京"を撮りたい」と語っていた同氏。「カメラマンは、ある意味においていつまでもやんちゃでいるべき」と言い切る彼のシャッターが、現在の東京で捉えるものは何であるのか興味深い限りだ。

    今年70歳を迎える同氏の貪欲なまでに精力的な活動の源はどこにあるのか。"写真とは何かを問い続けた"男の半生を目撃しに、ぜひ同展覧会に足を運んでみていただきたい。

    「森山大道展 I. レトロスペクティヴ1965-2005/II. ハワイ」
    会期 2008年5月13日(火)~6月29日(日)
    会場 東京都写真美術館 2階・3階展示室
    開館時間 10:00~18:00(木・金は20:00まで)
    休館日 毎週月曜日(祝祭日の場合は翌日)
    観覧料 一般1,100円、学生900円、中高生・65歳以上700円
    3階展示室のみ 一般 500円、学生 400円、中高生・65歳以上 250円
    2階展示室のみ 一般 800円、学生 700円、中高生・65歳以上 600円

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