「ペギラのチャックは閉まっていなかった」などの情報に通じ、円谷特撮作品には怪獣デザインを提供、ガオガイガーの膝にはドリルをつけさせる。そんなオタクがフィギュアメーカーを立ち上げた。「リアルなフィギュアは、こう作れ!」(成田亨)のセンスを受け継ぎ、真のリアリティを追求し続けるマーミットの赤松社長にお話を聞いた。
――商品を開発するうえでのコンセプトをお聞かせください。
「とにかく、いかに本物に見えるか。写真を撮ったときに、本物にしか見えないようなものが作りたい……というところを常に考えて作っている、っていうのはありますね」
――何がなんでも精密に作りさえすれば、本物に見えるわけではないと……。
「まったく違いますね。距離感というのがあるので。例えば1/6スケールでしたら、6倍の距離になってるわけです。そうすると、実際には50cmの距離で見ているものが、劇中のスケールの中では3m離れて見ることになるわけです」
――そうなりますね。
「じゃ、3m先からチャックのギザギザが見えるかって言うと、見えないんですね。だから、それを作っちゃうと逆にリアルじゃなくなっちゃうんです」
――なるほど。
「だから、チャックのようなものが見えるような見えないような感じで作るほうが距離感が出て、スケール感が出て、かえってそれはリアルに見えると」
――微妙ですね(笑)。
「質感もそうですね。細かい革の質感まで、ホントに作り込んでしまうのがいいのか、それともテレビで観たときの感じっていうんですか。特に昔は14型の小さいテレビで観てますから、アラが見えないわけですね」
――そうでしたね。
「テレビ画面で見えないものはない、と。本物にはついてたって、映ってなければない。というふうな方向で考えたいな、っていうのがあるんですね」
――ウルトラマンも着ぐるみでは、耳のところにスイッチがついてますよね。
「スチール写真でアップで見たら、あっ、こんなところにスイッチがついてる、とかっていっても、もうそういうのはあえて無視するように、なるべくそうしたいなっていうのは考えてますね」
――そうしたお考えは、どなたかの影響を受けていますか?
「特にガレージキットが始まったころは、皆さん一生懸命ウルトラマンのシワを作ってらして。成田亨さんが、それが嫌いで嫌いで。『わたしたちが現場でウルトラマンのシワができないように、どれほど苦労したか。わたしは、ウルトラマンにシワつけてあるのが大嫌いなんです』って」
――(笑)。
「『自分のアラ探し、揚げ足取りをされてるようで堪らなく嫌だ』って、おっしゃってましたけど……」
――オンエアされたものを作るべきだと……。
「一番いい例は、『スター・トレック』のエンタープライズ号。テレビシリーズのプロップは、実物は水色なんです。白くないんです。というのもあれ、宇宙の黒バックで白で撮ると、全部ハレーション起こして飛んじゃって撮影ができなかったんで、水色に塗ってあったんです」
――そうなんですよね。
「水色に塗ってあるから、明るいところは白く飛んで、ブルーに陰がついて、宇宙艦ができたんですね」
――撮影用のプロップに忠実でありさえすれば良いというわけではないと……。
「じゃ、本物が水色だからって、エンタープライズ号を水色に塗るのかと。本物至上主義だったら、水色に塗らないといけないんです。だけど、テレビの画面では白く映ってるんだから、商品も白く塗るでしょ、っていう。我々がテレビで観たのは、白なんですから」
――あくまでテレビでご覧になったものをおやりになりたいわけですね?
「そうですね。テレビで観たものが我々にとっての本物ですから。ペギラだって頭の後ろは、チャック閉まってしまってないですからね、実際は。テレビには映ってませんけど。あれ、開けっ放しなんですから」
――(笑)。
「じゃ、みんな開けっ放しで作るんですかっていったら、そういうわけにはいかないので。だから実物と劇中のものっていうのは、やっぱり違うというのは考えて作ってますね」