中国の企業ではいま、今年1月1日から施行された労働契約法をめぐる話題でもちきりだ。中国国内に立地する数多くの日系企業もまた、労働契約法の衝撃を回避することはできない。本稿では、同法施行後の中国国内企業の代表的な対応策と在中の日系企業の具体的な対応について紹介すると共に、労働契約法を積極的に活用することで企業が今後どのように変わることができるのかを考えてみたい。

雇用側の無理解が生んだ駆け込み的な大量解雇

今年元旦から施行された労働契約法は、間違いなく、中国の労使関係史上、極めて大きな歴史的意義を持つ法律である。しかし、新法と同法に関する司法解釈が登場した直後から、すでに相当数の訴訟事件とトラブル事案が報告されている。

労働契約法第14条は、「使用者と労働者が協議により合意に達すれば、固定期間のない労働契約を締結できる」とし、また、一定の状況がある場合は、「固定期間のない労働契約を締結しなければならない」と定めている。

雇用者側が、固定期間のない労働契約に関して明確に理解していないため、同契約をいったん締結すればもう解約できないと思い込み、同法施行直前に駆け込み式に大量解雇をしたり、直接労働者を雇用せず労務派遣業者から派遣社員を雇用し始めたりと、かなりアタフタとした対応をするところがあった。

こうした雇用側の行為が労働関係を更に不安定にし、法の目的とは裏腹に労使関係の流動化を促進した側面は否めない。とりわけ、短期の労務派遣への傾斜の影響を最も強く受けたブルーカラー層では、生活の維持すら脅かされるという状況が続出したため、結果的に集団争議が増えることになった。

残業制限や労働保険加入の義務付けがストライキの原因に

シンガポールの聨合早報の報道によると、同法施行後1週間もたたない1月7日、台湾の電源製品メーカーのAcBel Polytechが広東省東莞に持つ工場が操業停止の状態に陥った。操業停止の原因は、同工場の労働者5,000人がストライキに入り、うち2,000人が何日もの間工場側と交渉、残りの3,000人の労働者は社員寮で交渉結果を待ったからだ。

ストライキが始まるや、同工場の25本の生産ラインは全面的に生産を停止した。 労働者のストライキを誘発した直接の原因は、労働契約法の施行である。労働者の給料レベルが現地の最低賃金基準に達していなかったことも一因となった。

さらに、労働契約法の定めでは毎月の残業時間は36時間を上回ることができないが、労働者たちは主に残業手当で生活を維持していたため、残業制限が彼らの収入を直接的に圧迫する結果となったのだ。工場側が労働者の労働保険に加入しておらず、これも新たな法律の定める規定に違反していた。こうした様々な要因が重なり、同法施行後早々のトラブルとなった。