――マルサンさんといえば、なんといっても、ウルトラ怪獣ソフビですが、これが出始めたころは、ソフトビニールが玩具の素材として使われ始めた時期と一致するわけですか?

「ソフビ玩具自体はもっと早くから商品化されています。国産初の商品は、増田屋コーポレーションさんの『ミルクのみ人形』です」

――マルサンさんでも人形をおやりになったんですか?

「ええ。怪獣以前に、やはり子ども向けのマミードールという人形を発売しました」

――そこでソフビ製品もおやりになったし、プラモデルとブリキでゴジラもおやりになっていらしたし、そこからソフビ怪獣の誕生となるわけですね。

「マルサンが怪獣ソフビを手がけるようになったのは、2つ理由がありました」

――当時マルサンの開発部にいらした"いしづき三郎さん"がテレビで『ウルトラQ』の放送が始まったのをご覧になって、瀬戸物職人に原型製作を依頼したという有名なエピソードがありますね。

「1つは、やはりプラスチックやブリキよりもソフビの風合いのほうが、生き物である怪獣の人形にマッチしていた、ということはあると思います。もっとも、当時怪獣の原型作る人なんかいないわけです」

――そうですね。今は、いわゆる原型師さんがおられるわけですが……。

「そこで原型を依頼した方が何人かいらして、芸大で彫刻をおやりになっていらした方とか、あとは、瀬戸物のタヌキを作っていらした方とか」

――すると、もう1つの理由とおっしゃるのは……。

「2つ目は、プラモデル用の金型を作るよりソフビ用の金型を作るほうがずっと早く、安く作れたという点ですね」

――なるほど、毎週テレビで新しい怪獣が観られるようになった時代に、いろいろな種類の怪獣を作るには、そのほうがいいわけですね。

「コストパフォーマンスがいいんですよ」

――そして、プラモデルの場合は、自分で作らなくてはならないと。

「小学校に上がる前の子どもには、難しいでしょう」

――そういう意味では、怪獣ソフビというのは、今の言葉で言う、「塗装済み完成品」なんですよね。

「結果として、低年齢層の子どもたちをユーザーとして取り込むことができたということなんでしょうね」

――そういったことで大成功を収めたウルトラ怪獣ソフビですが、当初は必ずしもリアクションはよくなかったとか……。

「問屋さんに持ち込んだところ、『怪獣なんて気持ち悪いものが売れるのか』と(笑)。というのも、『ウルトラQ』放送開始当初、親たちは決して歓迎しなかったわけですよ。夕飯どきのお茶の間に、テレビからゲテモノが出てくると言って(笑)」

――ナメクジの怪獣とか(笑)。

「ですから最初に売れたのは、元型成型で作った600個だけだったんですよ」

――ところが、一旦市場に出たら、子どもが食いついたと……。

「問屋さんの読みと違って。そのために、今、何百万というプレミアのついている、尻尾の可動するゴメスやガラモンは、この世の中に、その600個しか存在しないんです」

――それ以降のものは、金型が違うということですか?

「まず、原型から最初におこした金型を使って、部品をそれぞれ複数個作ります。それが元型成型なんですが、今度は、その抜いたものを元にして、部品ごとに足なら足だけ複数個の部品をいっぺんに抜ける金型を作るんです。生産型と呼ばれる金型です」

――それでバージョン違いが生まれるわけですね。

「しかも、原型から金型にする過程で数パーセント縮み、さらに、そこから生産型を起こす段階でも縮みます。コピーするたびに縮んでいくんですね」