東京大学先端科学技術研究センター・都市環境システム分野教授 大西隆氏

国土交通省主催のシンポジウム「テレワークの将来展望」が2月25日、開催された。

シンポジウムではまず、東京大学先端科学技術研究センター・都市環境システム分野教授の大西隆氏が「テレワークによる地域活性化の可能性」と題して基調講演を行った。大西氏は「テレワークとは情報通信手段(IT)を活用して、場所や時間を自由に使った柔軟な働き方。産業政策や都市政策として、さまざまな省庁が早くから関心を寄せ、これまでにも多くの取り組みを行ってきたが、どれも実験に留まり、いまだ本格的には普及していない。少子高齢化問題など、これからの社会変化への"転ばぬ先の杖"として、今取り組みを始めてもまだ遅くない」と、テレワークの重要性を強調した。

大西氏が取り上げた2002年のテレワーク人口の国際比較では、日本の総テレワーカー人口は15.6%。EU15ヶ国の平均が13%、アメリカが24.6%と、他の先進諸国に比べても決して低い水準ではない。さらに、2005年には38.9%にまで大幅に上昇している。しかしこれに対して「この数字は必ずしも労働者環境が改善されたことを表すものではない。むしろギリギリまで合理化された勤務形態で実現された数字で、効率的に働いていてもワークライフバランスが実現できているかは疑問だ」「テレワークは使い方を間違えると、過剰な労働に強化されてしまう危険性がある」と大西氏は警告し、テレワークによる就業環境の改善が量的にではなく質的に行われることが重要だと訴えた。

また、日米欧の大企業の本社立地に触れ、米国や欧州が分散型であるのに対して、日本は売り上げトップ100社のうち64社が本社が東京都区部にあることを指摘。今後も都市部への人口集中、地方都市の拡散状態が続く傾向にあることを挙げ、「地方都市におけるテレワークの必要性が高まっている」と述べ、地方都市におけるテレワークの取り組み事例が紹介された。

大西氏によると、地方におけるテレワークの取り組みは"西高東低"の傾向にあるという。一例として、"終の栖(ついのすみか)"をコンセプトに、2005年度に市役所職員を対象に行われた滋賀県近江八幡市のテレワーク実験をはじめ、長野県須坂市のテレワーク施設、北九州市のテレワークセンター、熊本県阿蘇テレワークセンターが紹介された。大西氏は「これからは自治体が企業と手を組んで地域活性と一体となったテレワークが注目される」と、地域におけるテレワークの推進に期待を寄せた。