2月26日、ソニーとシャープが液晶テレビのパネルを共同生産すると発表して、話題を呼んだ。両社は2009年4月に合弁会社を立ち上げ、第10世代パネルの生産を行っていく。

しかしこれで衝撃を受けているのが韓国側だ。ソニーは、Samsung Electronicsと「S-LCD」というパネル生産の合弁会社を2004年に立ち上げ、ここで第7、8世代のパネルを生産している。韓国メディアの中には「ソニー、Samsung Electronics、決別」といった論調のところも見受けられた。

ディスプレイ専門の調査会社であるDisplaybankによると、現在、液晶テレビの販売実績では、Samsung Electronicsが2006年から業界トップを走っている。2004年時点では4位だったが、1位に台頭したのは、Samsung Electronicsのブランド戦略もさることながら、S-LCDを立ち上げ、パネル調達を円滑に展開できた部分が大きかったと分析する。ソニーも2004年時点では業界3位だったのが、いまや2位とシャープの上を行く企業だ。そのような中で、今後、有機ELテレビ事業を本格化しようとする立場にあるソニーは、液晶テレビの市場支配力を維持して行くためには、パネル供給業者を追加することが必須だったといえる。

ブランド別の液晶テレビ販売実績(単位:100万台)
  2004年 2005年 2006年 2007年 成長率
Samsung Electronics 0.8 2 6 13 154%
ソニー 1.0 2 5 10 114%
シャープ 2.2 4 5 8 54%
Philips Electronics 1.1 3 6 9 99%

(出所:Displaybank)

そこで他社との提携ということになってくる。気になるのは何故シャープか、といった点だが、それにはシャープ側の事情も絡んでくるようだ。シャープは自社製品用に使うパネルの98%を、自社で生産している。そのような中で新しく第10世代ラインを作るには、資金調達およびキャパシティを消化できるだけの顧客が必要だ。しかし「シャープは現在、現金の保有額がそれほど多くない」(Displaybank)ということで、他社との提携を進めたと見られている。一部では「(ソニーがシャープを選択した理由は)日本政府の強力な要請により、日本の業者を選択することとなったという推測もある」(Displaybank)という。

液晶パネルメーカー別に見るテレビメーカーへの供給量の比重
  ソニー シャープ Samsung
AUO 35% 1% 30%
CMO 4% 1% 20%
CPT 1% 10%
シャープ 98%
Samsung 60% 40%
合計 100% 100% 100%

(出所:Displaybank)

今回のソニーとシャープの提携は、Samsung Electronicsにどのような影響を及ぼすのだろうか。Displaybankによると、現在Samsung Electronicsによる液晶テレビのパネル販売の主要顧客は、Samsung Electronicsが最大の45%で、ソニーはそれに続く35%だ。

そのためSamsung Electronicsは「Samsungのテレビの持続的な市場拡大と、シャープ/ソニーとの支配力競争のために第10世代に対する動きを早める可能性が高まる」(Displaybank)こととなりそうだ。かつてSamsung Electronicsが4位から1位へと頭角を現したように、ソニーやシャープに逆転されるわけにはいかないからだ。

また、特に大きな打撃を受けると予測されているのが、台湾のパネルメーカーだ。これらのパネルメーカーの主要顧客はソニーとSamsung Electronicsだからだ。とくに40型以上のパネルになると、ソニー、Samsung Electronicsが顧客のすべてという依存度の高い企業もあり、これらの企業は何らかの対応が必要になってくる。

台湾のパネルメーカー別に見るSamsung、ソニーへの販売比重。表上部はテレビパネル全体、表下部は40型以上のパネル
Samsung ソニー Samsung + ソニー その他 合計
AUO 20% 20% 40% 60% 100%
CMO 16% 5% 21% 79% 100%
CPT 35% 2% 37% 63% 100%
AUO 62% 38% 100% 100%
CMO 100% 100% 100%

(出所:Displaybank)

市場に少なからず影響を与えるソニーとシャープの提携だが、肯定的な影響もあるとDisplaybankでは予測している。それは業界をリードしている業者間の競争が激しくなることで、50型以上の大型パネルの市場が、当初予想していたよりも急速に成長する可能性があるという点だ。

業界のトップ企業同士の新たな提携は、一方で決別や、別の提携を生むのか。そして市場はどう変わっていくのか、3社の一挙手一投足に注目が集まる。