【レビュー】

BOOK REVIEW - 想像できなかった現実をもたらす"破壊的技術"の凄さ

    本多義則  [2008/01/29]

    いま、見えている事実から想像できる未来の技術は何があるだろうか

    クレイトン・クリステンセンの名著「イノベーションのジレンマ」のおさらいから始めよう。10年前に出版されたこの本がいうには、優良企業は得てして顧客の要望に応えるために、従来技術の性能向上にいそしむ。これを"持続的技術"という。一方、まったく新しい技術が生まれても(これを破壊的技術という)優良企業は見向きもしない。なぜなら破壊的技術は最初はおもちゃのように見えるし、市場も存在しないように思えるからだ。だが、いつしか破壊的技術が爆発的に売れ出し、優良企業は市場から退場せざるを得なくなる。

    破壊的技術はどの分野にでも生まれるものだが、ことIT分野を見てみるとPCやインターネットはまさに破壊的技術だった。今ではあたりまえの存在となったこれらが他の技術に取って代わられることは想像するのは難しい。しかしこれらに代わる破壊的技術がいつかは生まれることだろう。

    ではGoogleがなくなることを想像できるか? 今や何かを調べる際、とりあえずググるようになったように、Googleやそれに類似する検索エンジンがないと生きていけないのは私だけではないはずだ。Googleは日々新しい技術やサービスを開発しているけれども「イノベーションのジレンマ」の言うところの持続的技術に陥ってはいまいか? 実際、新たな検索技術は雨後のタケノコのように生まれている。より人間が使いやすい検索技術として自然言語検索や人力検索がある。人力検索というと「はてな」だが、ふざけているようにしか見えないこの質問サイトがGoogleを超える検索技術に化ける可能性もあるのだ。

    IP電話という破壊的技術により、固定電話が早晩なくなるのが真実味を帯びてきた。同様にインターネット上の動画配信サービスが既存のテレビ局にとって代わることも十分ありうる。インターネットテレビというと日本だとGyaOの登録者数が1,000万人を超えている。はたしてNHKがなくなることがありうるのか? 想像しにくいが、それが破壊的技術というものなのだ。

    フィードと呼ばれるRSSやAtomはニュースサイトやブログの更新情報を配信する技術だが単なる便利ツールではない。これまでインターネット上のWebサイトはユーザから見つけて訪問してもらう必要があったが、フィードによりWebサイトとユーザは直結される。これによりインターネットの姿は大きく変わるかもしれない。

    トレンドの捉え方を指南してくれる一冊

    渡辺弘美は『ウェブを変える10の破壊的トレンド』(ソフトバンククリエイティブ)という本の中で、このように特にアメリカで起こりつつあるIT分野での破壊的技術のトレンドを10種類の角度から分類し紹介する。

    クラウドソーシング(Crowdsourcing)もそのひとつだ。群集の叡智を利用して問題解決するというスタイルはウィキペディア(Wikipedia)や、ショッピングサイトでの購入者によるレーティングにみられるようにその効果は明らかだが、企業の研究開発を一般から募集する試みも実際に行われている。

    破壊的技術は優良企業からみるとおもちゃや遊びのように見えるので、まじめに取り組もうとはしない。そうはいうものの、3D仮想世界のセカンドライフへの多くの企業の参加は、企業の破壊的技術への対応の試みとみることもできよう。セカンドライフのブームは去ったかのように思える昨今だが、セカンドライフより10倍ユーザの多い仮想世界が中国にある。仮想世界と現実世界の境界では金にまつわるさまざまな問題が起こっている。

    本書は、我々日本人がふだん使ったり聞いたことのあるWebを中心とするツールやサービスの真の意味を教えてくれる。それらは最初はちょっとした便利ツールにしかみえないが実は破壊的技術かもしれない。このトレンドを正しく捉えないと次の時代では恐竜のように滅んでしまうだろう。

    先進的な企業は破壊的技術に取り組もうとしている。社内SNSを導入する日本企業がでてきたのはクラウドソーシングを取り入れようとしているのだ。本書でも書かれてあるように企業が破壊的技術を大規模に取り入れる事は「イノベーションのジレンマ」からみても不可能なため、様子を見つつ小さく始めることが適切だろう。

    渡辺氏はJETROニューヨークセンターに3年間駐在しIT調査をやってきてた。私は一度、ニューヨークで中華をご一緒したことがある。その後、月に一度の米国IT動向のニュースレターを購読させていただいたが、その緻密な調査内容には感嘆の意を禁じえなかった。本書を拝読し、聞いたことない技術やサービスには目を見開かされた。今後新しいWeb技術やサービスが出てきた時に、本書の10のフレームワークが自分なりにトレンドを理解するために役立つだろう。

    最後に、日本から破壊的技術が出にくい理由も本書に書かれてあるが、私自身、エンジニアとして妙に納得するものがあったことを付け加えておく。

    『ウェブを変える10の破壊的トレンド』

    渡辺弘美 著
    ソフトバンククリエイティブ発行
    2007年12月12日発売
    A5判 / 224ページ
    ISBN978-4-7973-4644-2
    定価: 1,785円(本体価格: 1,600円)

    関連サイト

    新着記事

    特設サイトの情報

      人気記事

      一覧

      イチオシ記事

      新着記事

      特別企画

      マイナビニュースマガジン