【レポート】
映画などのネット配信から還元される利益が十分ではないと米脚本家組合(WGA)がストライキを起こした結果、ゴールデン・グローブ賞の授賞式が中止となったのは記憶に新しいが、こうした問題の背景には、映画産業を含めた米国の大手メディアが急速にネット対応を進めているという事情があり、このままいけばアカデミー賞授賞式の中止も必至だ。17日に毎日新聞社などが主催したシンポジウムでは、そうした事情について、米国コロンビア・ビジネス・スクール教授のEli Noam(エリ・ノーム)氏が講演した。
同講演は、毎日新聞社のほか、駒澤大学、日本BS放送が主催して東京都世田谷区で開かれた、同大学グローバル・メディア・スタディーズ学部国際シンポジウム「通信・放送融合時代のビジネス」の基調講演として行われた。
ノーム氏ははじめに、コンピュータと通信装置が融合し、テレビや携帯電話などの家電もそのネットワークの中に入ってくる中、コンテンツがより一層重要になってきていると説明。テレビ局などの映像メディアは、この流れに対応するため、まず音楽業界の失敗から多くを学んだと指摘した。
ノーム氏によれば、音楽業界はこうした流れの中で、最近の5~10年の間に海賊版の拡大など多くのトラブルにみまわれてきた。同業界は、こうした時代の変化に対してはじめは無視、その後は訴訟を起こしたり政府によって貿易交渉で圧力をかけたりと、いろいろなアクションを起こしてきたが、結局は音楽のダウンロードに課金するというビジネスモデルが支配する世界となった。映像メディア各社は、音楽業界の動きを見て、「自分達がやらなければ誰か他の企業が新しいビジネスモデルを作ってしまう」ということを学んだという。
音楽業界から教訓を得たメディア業界は、いくつかの戦略的オプションを選択した。オプションで第1に挙げられるのは、「コンテンツを配信するインフラとコンテンツそのものを束ねる(Bundle distribution infrastructure with content)」というもの。このオプションを選択したのは、通信会社ではAT&T、Verizonなどで、ComcastなどのCATVはすでに、こうした垂直統合型モデルを実現している。
Verizonは、垂直統合型モデルを実現するため、米国では例外的に光ファイバー網に対する投資を野心的に行っており、年間ベースでは世界で最も多額の投資を行っている。AT&Tは、Verizonに比べるとやや控えめな戦略だが、CBS、NBC、FOX、MTV Networksなどの番組をパッケージ化して提供している。だが、ノーム氏はこれについて「何ら新鮮味はなく、伝統的なビジネスモデルを踏襲しているにすぎない」と意見を述べた。
ノーム氏は、こうした通信会社の戦略は現在のところあまりうまくいっておらず、YouTubeなどインターネットコンテンツプロバイダーと対立するような状況が生まれてきていると指摘。その上で、「通信会社を支持する共和党と、ネットユーティリティを信奉する民主党の対立となって政治問題化している。今度の大統領選は、どちらが勝つかによって、メディア業界にとって大きな影響がある」と述べた。
また、大手CATVのComcastは、ポータルにアクセスすればABCやCBSなどの約5万に及ぶ映像コンテンツの視聴が可能な「Fancast」を展開、Paramount PicturesやMTV Networksを傘下とするViacomなども参加している。だがノーム氏によれば、Comcastは他社コンテンツのパケット流通の帯域制御をする「Traffic shaping」を行っているといい、これも大きな政治問題化している。同氏は「垂直統合型モデルはゲートキーピングの力を1企業に集中させるという点で、非常に大きな政治問題を引き起こす」と指摘した。
メディア業界の2つ目の戦略オプションは、「コンテンツに特化し、多くのプラットフォームを利用する(Specialize in content,use multiple platforms)」。ノーム氏はこのオプションについて、「ビジネスモデルをどうするかということが重要になる」と説明した。
第1のビジネスモデルは広告のサポートによるもので、FOXなどの映像番組が見られる「Hulu」があげられる。同サイトでは、番組視聴者に対し、いろいろな形で広告を提供しているが、このモデルの問題点としては、「テレビ、PC、携帯と、全てのスクリーンをカバーする広告が必要で効率が悪い」(ノーム氏)ことが挙げられる。そのため、「どうすればこれらのプラットフォームを体系化できるか」(同)が大きな課題となっているという。
2つ目のビジネスモデルは、ビデオ・オン・デマンドだが、「必ずしもヒットしているかと言えばそうでもない」(同)。第3は、定期購入型で、一旦ダウンロードすれば24時間視聴できるものなどがこれに当たるという。
では、米国の大手メディアは具体的にどのような戦略をとっているのか。ノーム氏は、General Electric(GE)/NBC、News Corporation、ABC/Walt Disney、Viacom/CBS、Appleなどの各メディア(グループ)の戦略について具体的な事例を紹介した。
GE/NBCは、YouTubeにNBCチャンネルを設け、同サイト限定版のコンテンツを提供するなど、著作権侵害を問題にされるYouTubeにとって正当化の大きな材料を与えた。また、前述のHuluを展開、HuluにはFOXも45%を出資し、広告によるサポートによって多くの映像コンテンツを視聴できるようになっている。
FOXを傘下に置くNews CorporationもHuluに関わっているが、大手SNSのMySpaceの買収によって、伝統的なテレビ番組に飽き足らない層を取り込もうとしている。
ABC/Walt Disneyも、Huluとほぼ同じ形態の「ABC.com」を展開。また、コンテンツの一部をAppleのiTunes Storeに提供している。Viacom/CBSは、共同でヨーロッパに大きな投資を行っており、ルクセンブルクの動画配信会社ジュースト(Joost)と提携するなどの動きを見せている。
Appleは、音楽に関しては成功したものの、映像配信に関しては必ずしもうまくいっているわけではなく、米国の映像マーケットでのシェアは4%ほどしかないという。
ノーム氏は、米メディアの今後の動きとして、「連邦通信委員会(Federal Communications Commission、FCC)が新聞とテレビの資本関係に関する規制を緩和した動きが注目される。米国の新聞は、体力が弱っているとはいえ、赤字を出している状況ではない。今後、地域紙が地域のテレビ局と提携することで、より大きな力を持つことになるだろう」と指摘した。
また、講演後に会場から出た「テレビ番組のネット配信は、結局うまくいっているのか」という質問に対しては、「利益があがっているのかと言われれば答えはノーだ。だが、悲惨な結果になっているかと言うとそうでもない」と現状を説明。
その上で、「これだけコンテンツがあふれると、プレミア性が高いコンテンツのニーズが高くなる。そこでは、国境を超えた配信が拡大し、米国から世界へ向けてプレミア性の高いコンテンツが広がっていくだろう。そうした意味では、ハリウッドの力はますます強くなっていくのではないか」と述べ、楽観的な見方を示した。
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