23日にテレビ朝日系で生放送された漫才頂上決戦『M-1グランプリ2007』決勝。敗者復活から這い上がったコンビが優勝という、まさかの大波乱が起こり、全国のお笑いファンがテレビの前で手に汗握った今年の「M-1」を、オンエアには乗らなかった激闘のドラマを交えてレポートする。

放送開始直前、「M-1」ファンでギッシリと埋め尽くされたテレビ朝日のスタジオ。客席には、ギャル曽根、安倍麻美、ピエール滝、三倉茉奈・佳奈、芸能リポーターの井上公造など、お笑い好きを自認する有名人の姿もチラホラと見える。会場は、興奮と緊張が入り交じった一種異様な空気が充満していた。今や国民的一大イベントとなった「M-1」への期待感がいやがうえにも高まる中、いよいよ本番がスタート! 中田カウス、大竹まこと、オール巨人、ラサール石井、上沼恵美子、松本人志、そして大会審査委員長でもある島田紳助(スタジオ登場順)の7人の審査員、昨年のチャンピオン・チュートリアルが大歓声で会場に迎えられ、戦いの幕は切って落とされた。

番組の平均視聴率は、関西地区で31.1%、関東地区で18.0%をマークした(ビデオリサーチ調べ)

最終決戦進出をかけ、ファイナリスト8組が上位3組のイスを争う最初のバトルの1番手は、決勝常連の笑い飯。今年も"優勝候補"の筆頭として名が挙がり、Wボケの持ち味を遺憾なく発揮するネタで客席を大いに沸かせたが、審査員の評価は意外と辛い80点代が並び、得点は「604点」。続くPOISON GIRL BANDは「577点」、初出場ながら健闘したザブングルも「597点」、千鳥も「580点」と思いのほかポイントが伸びない。

コメントを求められた島田紳助が「今日は(審査が)難しいわ」とこぼしたが、まったく違う個性の各組を、どこを基準に採点すればいいかは審査員も悩むところだろう。CM中にも、採点についてディスカッションでもしているのか盛んに言葉を交わしたり、本当に困ったといった表情で頭を抱え込む審査員たちの姿が見られた。ネタの直後にすぐさま採点を出さなければならない審査員にも、過酷な一発勝負が強いられるのだ。

「ネタを厳選して、M-1向きのネタをやることがポイント」と以前より語っていた島田紳助

そんな中、今年結成10年目で、「M-1」には最後の挑戦となるトータルテンボスがステージへ。テンポのいいボケとツッコミの応酬で観客をグイグイと引き込み、ラストチャンスにかける気迫を感じさせた。審査結果もこの時点で1位の笑い飯を凌ぐ「646点」を獲得! 続いてのキングコングも気迫十分。ネタの冒頭、まだ暗転中にも関わらず挨拶代わりの「イェイイェイ!」をやってしまう"前のめり"ぶりは、すでに売れっ子の彼らからすれば意外なほどに初々しいが、それほど「M-1」への意気込みが強いということだろう。速いテンポで笑いをたたみ掛けてくるネタは「650点」とトータルテンボスを上回り、ここでキングコングが一躍トップに。

そして紅一点のハリセンボンが「608点」をマークし、3位に食い込み、なんと、"優勝候補"の笑い飯が敗退決定! ベスト3が待機するボックスを去ることになった笑い飯・西田の「ここを一歩も動かへんぞ!」という駄々っ子コメントに爆笑が起こったが、こんな場面でも不敵にふざけ続けるタフさも笑い飯の魅力だ。また来年も勝ちに来て欲しい。そしてファイナリスト最後の出番は決勝初参戦のダイアン。独特のボケ味で健闘したが、結果は「593点」とベスト3には届かなかった。

この時点で1位のキングコング、2位のトータルテンボスが最終決戦進出を決め、3位のハリセンボンの運命は、次に登場した敗者復活組のリベンジ戦士・サンドウィッチマンに託された。復活枠の本命と目されていたわけではない、ほとんど無名のコンビ。しかも、茶髪に派手なスーツという"昭和のヤクザ"な怪しいルックスに、正直、客席はアウェー気味。だが、ネタが始まるとムードは一変した。飄々とボケる富澤に伊達がひねりにひねったツッコミで返す、安定感のある漫才に、観客からドカンドカンと爆笑が起こり、結果は、キングコングを1点上回る「651点」を獲得し、トップの成績で最終決戦へと駒を進めた。昨今はイケメンも多いお笑い芸人の中で明らかに異質な、紳助いわく「小汚いオッサン」の2人が、格好よくドラマを作ってしまった。

優勝したサンドウィッチマンの伊達みきお(左)、富沢たけし

波乱で迎えた最終決戦。トータルテンボスは凄みすら放つハイレベルな漫才を、絶叫と呼びたいほど力いっぱいの声でハイスピードな漫才を演じきり、「もうやるネタがありません」とこぼしていたサンドウィッチマンも、落ち着いたネタ運びで確実に笑いを取っていく。3組は持てるパワーを出し切り、一歩も譲らぬ互角の戦いを繰り広げた。

そしてついに、2008年の漫才王者が決まる最終ジャッジの瞬間は目前。CM中、舞台でジャッジを待つ3組の様子はじつに三者三様だった。客席にいるチュートリアルをいじって笑わせていたトータルテンボスは「すべてを出し切った」という清々しい表情を見せる。一方、キングコングは西野が自分を鼓舞するかのように何度もうなずく仕草を見せ、梶原は深くうなだれて立っているのがやっとといった感じ。襲い来るプレッシャーと必死に戦っているのが見て取れる。そして、サンドウィッチマンは、心の準備をするヒマもなかったのだろう。「もういっぱいいっぱいです」と言わんばかりに黙って天を見上げている。そしてCMが明け、発表すると見せかけて「それではCMの後!」と再びCMに入る、M-1恒例のズッコケお約束シーンが。客席からは笑いが起こるが、緊張を引っ張られる3組は笑うどころではない。キングコングなどは腰が抜けたように床ににしゃがみ、顔を覆ってうずくまってしまった。

そして、今度こそ本当に最後のジャッジ発表! 審査員の過半数を超える4票を獲得したサンドウィッチマンが、大会史上初となる"敗者復活枠から頂点に這い上がったチャンピオン"として見事な逆転劇を演じ、漫才ナンバー1の栄光を手にした。それまで、3組の中では一番平静そうに見えた2人だったが、発表の瞬間は喜びを爆発させ、ステージ中央で固く抱き合う姿が印象的だった。

「家賃6万8000円を折半してます」と木造アパートで同居しているという2人。今後の活躍に期待したい