近年、「ITアーキテクト」という職種が注目度を増しています。情報システムが社会インフラとしてなくてはならない存在になっている現在、その良否、出来不出来が直接生活に響いてくる場面も増えてきています。その情報システムのアーキテクト(建築家、設計者)という立場であるITアーキテクトとはいったいどのような職業なのでしょうか。

ITアーキテクトが求められている背景や果たすべき役割

IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)が定めるIT関連の職業に従事する人材が持っている(持つべき)スキルを規定したITSS(ITスキル標準)V2では、IT人材の職種を11に分類しています。その中に「コンサルタント」「ITスペシャリスト」「プロジェクトマネジメント」等の職種に並んで「ITアーキテクト」があります。"IT"の文字が示すように技術的な側面が強調されており、"スペシャリスト"とも異なるグローバルな観点を持つ職種ということがわかります。ITアーキテクトの職種説明には以下のように記述されています※。

ビジネスおよびIT上の課題を分析し、ソリューションを構成する情報システム化要件として再構成する。ハードウェア、ソフトウェア関連技術(アプリケーション開発技術、メソドロジ)を活用し、顧客のビジネス戦略を実現するために情報システム全体の品質(整合性、一貫性等)を保ったITアーキテクチャを設計する。設計したアーキテクチャが課題に対するソリューションを構成することを確認すると共に、後続の開発、導入が可能であることを確認する。また、ソリューションを構成するために情報システムが満たすべき基準を明らかにする。さらに実現性に対する技術リスクについて事前に影響を評価する。

この記述から、ITアーキテクトはシステムが解決すべき課題を分析して「要件」にし、その技術的な解決策(ソリューション)を構成する「アーキテクチャ」を設計する職種であることがわかります。ソリューションは個々の課題を解決する手段なので、それらを整合性ある形で纏め上げる枠組みを設計することが役割となっています。また、システムの品質や、開発可能性、技術リスクの評価等が責務として挙げられており、システム全体の構成を考えるディレクターといった立場といえます。

この職種内容を見ると、現在の情報システム構築が抱える問題が透けて見えてきます。大規模開発を行って鳴り物入りで開発したものの、エンドユーザの要望を反映していないため、まったく使われず埃をかぶっているシステム、性能や負荷レベルをまったく考慮せずに開発したため、カットオーバした途端にダウンしてしまうシステム、最新/最高レベルの技術を採用したため開発者にノウハウがなく、試行錯誤の末に結局完成しなかったシステム……。このような、巷でよく聞かれるバランスや全体見通しに欠けたシステムの発生を未然に防ぎ、顧客が望み、開発者が安心して開発でき、利用者が喜ぶシステムを設計するのが、ITアーキテクトの職務といえます。

※参考文献

独立行政法人 情報処理推進機構 ITスキル標準センター「ITスキル標準V2 2006 2部: キャリア編」