連日開場前には行列ができたインテックス大阪

11月30日~12月3日にかけて、インテックス大阪にて「第5回大阪モーターショー2007」が開催された。西日本最大級の同モーターショーには、4日間で前回開催時の30万人を上回る来場者が見込まれる。2年に1度、東京モーターショーに引き続いて開催されることもあり、やや展示規模は小さくなるものの、大阪モーターショーならではの出展も期待され、独特の盛り上がりを見せるイベントとなっているようだ。

乾電池で時速100kmオーバー達成のギネス記録車も登場

毎回、大阪モーターショーには、関西有数の大学・学校による次世代エネルギーカーやオリジナルカスタマイズカーなどが展示される「学校研究車両ゾーン」が設けられる。今回は、6号館Bの特設ゾーンに各ブースが設けられたが、最も目立っていたのは、大阪産業大学(OSU)の出品ブース。中でも、単3乾電池のみを動力源にして、平均時速100kmを超えるギネス記録樹立に挑んだ「OXYRIDE RACER」(オキシライドレーサー)を至近距離で見られるコーナーは、子どもから大人まで、多くの人々の注目を集めていた。

これがオキシライドレーサーだ!

今年4月、松下電器産業から「乾電池100本で時速100kmを超える自動車を産学協同で作りませんか」との誘いを受けてから、急きょOSUに発足した「オキシライドプロジェクト」だが、同プロジェクトを率いた藤田久和氏は、記録達成への道のりは、決して楽なものではなかったと振りかえる。同氏は「実のところ、同じパナソニックのオキシライド単3乾電池を用いて、前の年に東京工業大学が、空の飛行記録に挑戦して成功していたんです。なぜ東京工業大学だったかというと、ここは鳥人間コンテストで優秀な成績を収めている。空中での記録達成に続いて、次は地上でも記録を打ち立て、オキシライドの実証コマーシャルを作ろうとなった時、うちはソーラーカーレースで高い評価を得ているということで選ばれました」と語っている。

乾電池の限られたパワーだけで高速走行を実現するためには、究極の車両設計が求められる。しかしながら、同じくソーラーパワーのみで高速走行記録を目指すソーラーカープロジェクトにおいて長年培われてきたノウハウが、オキシライドプロジェクトでも大いに威力を発揮したようだ。その結果、オキシライドレーサーのボディデザインは、究極の流線型フォルムに仕上げられ、超軽量化ボディを実現するため、航空宇宙産業分野でも最先端となる炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の採用を決定。シャーシには、軽量かつ高剛性を確保するモノコック構造が用いられたようだ。

OSUはソーラーカープロジェクトにも長く取り組んできた

見事にギネス世界記録を樹立!

「なぜ100本で100kmと提案されたかというと、やっぱり語呂合わせがいいんです。それで可能な限り、その数値目標に向けてデータを取り続け、最小本数が算出されました」と藤田氏は話す。ギネス記録を樹立するためには、1km以上の区間を1時間以内に往復し、その平均時速で時速100kmを超えなければならないという。結局、192本の乾電池で、見事に往復平均時速105.95kmを実現し、ギネス世界記録に認定される快挙が成し遂げられた。

192本のオキシライド単3乾電池が搭載されている

藤田氏は「乾電池って、ある意味で昔から最も身近にあるエネルギーじゃないでしょうか。もう世界のどこにでも売ってて、すぐ手に入るという点では、本当に自由自在に使えるエネルギー。その小さなエネルギーで、こんなに速く走れるんだということを実証できた意義は大きいと思います」と語ってくれた。あくまでも高速走行で記録樹立が前提だったため、約2kmの航続距離だったものの、実際にはオキシライドレーサーは、192本の乾電池で、平均時速60kmにて70km以上の距離を走り続ける性能があるという。

他にOSUの出品ブースで目立っていたのは、オートバックスセブンとの産学協同で進められている「BEV: Bio Energy Vehicle」(バイオ・エネルギー・ビークル)の参考出展車両。現在開発中の「ガス化発電装置搭載バイオリアクターシステム」にドッキングさせると、草木や廃プラスチックなどを高温加熱水蒸気中でガス化し、可燃性ガスによる発電で動力を得て走行可能になるという。それにしても、このBEVは、ガルウイングドアを装備したスタイリッシュなスポーツカーデザインで、次世代エネルギーカーのイメージには似つかわしくないような気もする。藤田氏は「例えば電気自動車ならば、遅いし遠くまで走れないし、格好悪いというイメージが、どうしても一般的に存在します。まずはそのイメージから打ち破り、デザインにまでこだわったのがBEVです」と説明する。今後の進展も楽しみなプロジェクトだ。

デザインにまでこだわったBEV

ソーラーカーの王者「芦屋Sky Ace TIGA」も出展

今回の大阪モーターショーのテーマには「人、地球 ここからはじまる未来がある」が掲げられており、人と地球環境に優しい未来の車の提唱も、基本コンセプトとされている。芦屋大学の出品ブースには、ソーラーカー開発に15年以上にわたって取り組んできた同大学の最新モデル「芦屋Sky Ace TIGA」(芦屋スカイエースティガ)が展示され、クリーンエネルギーのソーラーパワー活用がアピールされた。

芦屋Sky Ace TIGAを出品した芦屋大学ブース

当初から同大学のソーラーカープロジェクトを率いてきた羽藤正秋教授は「太陽電池のことを何も知らずに、ソーラーパネルを使った電卓や時計を徹底的に調査研究し、失敗も糧にして進んできたからこそ現在があります」と語る。すでに芦屋Sky Ace TIGAでは、6度にわたり「FIAドリームカップ・ソーラーカーレース鈴鹿」を総合優勝で制し、国内で圧倒的な強さを誇るものの、1世代前の「芦屋Sky AceII」(芦屋スカイエースツー)では、改良を重ねて開発したはずが、いつまで経っても記録が思ったように伸びない困難な時期を経験したという。

「どうも空気抵抗が予想外に大きかったと気づき、一層の車両軽量化を図る上で、カーボンケプラの採用へとシフトすることにしました。ところが、こうした素材をボディに用いていこうと思っても、一般的には大抵が企業秘密で、ほとんど情報がありません。でもそんな時に、学生プロジェクトとしてならば特別に…といって、極秘扱いの情報や技術を提供してくださる企業があり、これが大きな支えになってきました」と、羽藤教授は話している。芦屋Sky AceIIでの失敗を、すべて無駄なく糧にして2000年に完成した芦屋Sky Ace TIGAは、今も現役として活躍する高い完成度に仕上がった。チェーンを使用しないため、動力のロスが発生しない「インホイールモーター」を採用するなど、引き続き産学協同でのソーラーカー開発が続いているようだ。

インホイールモーター

芦屋Sky Ace TIGAは、数々のソーラーカーレースで優秀な成績を収め続けている

しかしながら、羽藤教授は、世界に目を向けた危機感も口にする。これまで日本でも数々の企業のお世話になってきたものの、海外の大学研究サポート体制の強力さには及ばないという。実際、芦屋Sky Ace TIGAは、オーストラリアを縦断する3,000kmのソーラーカーレース「World Solar Challenge」(ワールドソーラーチャレンジ)にも挑んできたが、そこで海外チームのバックの大きさに驚かされることが多々あるという。例えば、ある欧州チームは、宇宙開発にしか用いられていないような最強の太陽電池を提供されて、万全の体制でレースに臨んできたようだ。米国の大学チームが使用している太陽電池の出力も、芦屋Sky Ace TIGAを上回ることが少なくなく、しかも企業の強力なバックアップを受けて開発が進められているという。

業績や結果が常に求められる企業とは異なり、自由な研究開発を進められる大学ならではのメリットもあるだろう。国内で、こうしたアイディアのプロジェクトが多数登場し、もっと若者の才能が最大限に発揮される環境が整うならば、一層魅力的な未来の車の誕生へとつながっていくかもしれない。