ソフトウェア・アズ・ア・サービス(SaaS)の波が少しずつ大きくなってきている。CRM、SFAなど業務アプリケーション分野で専業ベンダが生まれており、コンシューマを見てもWebアプリケーションの利用が増えている。SaaSは当初の予想通り、新しいコンピュータモデルとなるのか? 否とすればその阻害要因は何か? -- 10月にハンガリー・ブダペストで開かれたITとビジネスのカンファレンス「ETRE 2007」で、SaaSプロバイダ3社とベンチャーキャピタル1社の4人の代表者が議論を交わした。

ラウンドテーブルに参加したのは、セキュリティをSaaS形式で提供する米ScanSafeのCEO兼共同設立者 Eldar Tuvey氏、遠隔から自分のPCにアクセスできる米LogMeInの創業者兼会長兼CEO Michael Simon氏、バーチャルデスクトップ環境の米Sapotek共同創業者兼CEO Josh Rand氏の3人のベンチャー創業者、それにベンチャーキャピタル米Atlas Venturesのパートナー Sonali De Rycker氏の4人だ。

左から、LogMeInのCEO Simon氏、ScanSafeのCEO Tuvey氏、Atlas Venturesパートナー De Rycker氏、米SapotekのCEO Rand氏

まず、SaaSの現状について。1990年代終わりに米Salesforce.comを立ち上げたMarc Benioff氏が「ソフトウェアの死」とともに、SaaSの時代到来を告げた(当時、SaaSという言葉は一般的ではなく、「オンデマンド」がよく用いられていた)。あれから約8年が経過している。

「SaaSのビジネスモデルは実証された」というのはベンチャーキャピタリストのRycker氏。だが、SaaSが興味深い進化を遂げているのも事実、と続ける。現在のSaaS市場のプレイヤーは小規模企業で、どちらかというとニッチ市場のアプリケーションが中心。大企業、デスクトップアプリケーションにはまだ及んでいない。

これについて、「IT部門が不要というSaaSのメリットが利いた」とLogMeInのSimon氏は分析する。SaaSの長所として、容易な実装、実装コスト、容易な管理・保守、一貫性などが挙げられるが、これらは中小規模企業に最もアピールする長所という。

では、大企業がSaaSを導入する上で、懸念となっているのは何なのか? ユーザー数2万6,000人から20人まで、さまざまな顧客を持つというScanSafeのTuvey氏は、「時代はハードウェアからサービスに向かっている。だが、顧客はある程度のコントロールを望んでいるのも事実。サービスを中央化することが大切」と分析する。「ASP(アプリケーションサービスプロバイダ)が伸びなかったのは、冗長性、セキュリティなどの懸念があったから。この不安は少しずつ緩和されており、われわれは市場のドライバを理解しなければならない」(Tuvey氏)。Simon氏もこの意見に同意し、グローバルソリューションやヘルプデスクなどの機能が重要と付け加えた。

このほかに阻害要因としてあがったのは、自分たちの職がなくなるというIT部門の不安だ。SaaSのメリットはIT部門の作業削減を意味する。彼らにとっては、存在意義がなくなる可能性もある。これに対し、ScanSafeのTuvey氏は、「セキュリティに限っていえば、SaaSは作業負荷を取り除くレベルにすぎない」という。「メリットを理解すれば、受け入れは進む」(Tuvey氏)。ScanSafeではこのところ、ISPを中心に導入が進んでいるという。