日本でディーゼルの乗用車は見る影もないが、欧州では半分近くがディーゼルだという。合理的な彼の地の人々が伊達や酔狂でディーゼルを選ぶとは思えない。やはりディーゼルには意味があるのだ。今回のモーターショーで、ディーゼル復権の兆候をまとめてみよう。

三菱自動車「Consept-cX」

ディーゼルエンジンを積んだコンセプトモデル

石原都知事がペットボトルを振ってから、日本のディーゼル人気は地に堕ちた。ディーゼル愛好者は都知事を恨んだが、クリーンなディーゼルがどういうものかを考え直させたという面では、意味があったように思う。このあたりは丸山誠氏のコラムに詳しい。

本質的にディーゼルは熱交換率が高く燃費がいい、ひいてはCO2排出量が少ないこともあって、欧州では大変な人気を得ている。日本メーカーも欧州で市場を得るためにはディーゼルを開発せざるをえないのが現実だ。実際、ホンダなどは欧州で販売するアコードなどにディーゼルエンジンを搭載して販売している。

「Consept-cX」はコンパクトなボディにディーゼルエンジンを搭載

三菱の1.8Lディーゼルエンジン「4N13」。最高出力は100kW

「Conxept-ZT」もディーゼルエンジンを搭載している

2.2Lのディーゼルエンジン「4N14」。最高出力は140kW

今回のモーターショーで、三菱自動車はディーゼルエンジンを積んだコンセプトカーを2機種も展示している。ひとつは1.8L(リッター)のディーゼルエンジンを搭載した「Consept-CX」。コンパクトなSUVスタイルのモデルだ。もうひとつは2.2Lディーゼルのセダン「Conxept-ZT」。この2つ、排気量の違いこそあれ、エンジンの構成はよく似ている。どちらも直列4気筒でバルブは各気筒4本、可変ノズル式のターボチャージャーを搭載している。

三菱のふたつのエンジンの違いは燃料噴射。コモンレールを使用するのは同じだが、1.8Lはインジェクションにソレノイド式を使うのに対し、2.2Lはピエゾ式を採用している。出力は1.8Lが100kW/4,000rpm、2.2Lが140kWと表記されているが、完成までにはもう少し時間がかかるということなので、スペックは変わる可能性が高い。また、どちらも「ポスト新長期規制(2009年)」を目標に排出ガスのクリーン化を進めている。

日産自動車は次世代V6クリーンディーゼルエンジンを、コンセプトモデル「インティマ(INTIMA)」に搭載した。エンジンの詳細は発表されていないが、こういった流麗なモデルにディーゼルを組み合わせているところなど、クルマの将来を見据えているようで頼もしい。

日産自動車の「インティマ」。V型6気筒のディーゼルエンジンを搭載

「インティマ」は観音開きのドアが大きく開く

メルセデスのコンセプトモデル「F700」。未来のサルーン

「F700」の「DIESOTTO」エンジン。ガソリンだが、ディーゼルのように自己着火する

日本でディーゼルを発売するのか?

欧州でディーゼル車がたくさん売られているのなら、日本に持ち込んで売ればいいと思うのだが、現在日本でディーゼル車を発売しているのはメルセデスぐらい。それもごく一部だ。欧州でディーゼル車の評価の高いフォルクスワーゲンやプジョーは、日本でディーゼルを販売していない。

その理由は、日本でディーゼルの人気がないためでもあるが、排出ガス規制が日本と欧州で異なる点も見逃せない。欧州のディーゼル車はそのままでは日本の規制を通らず、さらなるクリーン化を行なわなければならないのだ。日本のメーカーで、国内に乗用車用ディーゼル投入を明言しているのは、いまのところ日産自動車とホンダだ。

日産自動車はクリーンディーゼルエンジン「M9R」を同社の「エクストレイル」に搭載し、2008年に国内で発売すると発表している。このエンジンはルノーと共同開発したもので、コモンレールを使用し、ピエゾ式インジェクターから1,600bar(気圧)で燃料を噴射する。可変ノズルターボと組み合わせ、最高出力127kW、最大トルク360Nmを得るという。オートマチック車では少し出力を下げるかもしれない。

欧州で評価の高いホンダのディーゼルエンジン「i-CTDi」だが、今回のモーターショーではこれをさらに進化させ、クリーン性能を高めた「i-DTEC」を展示した。先のフランクフルトショーで「アコードツアラー・コンセプト」と同時に発表されたエンジンで、欧州の「EURO5」、北米の「Tier2 Bin5」、日本の「ポスト新長期規制」をすべてクリアする。排気量は「i-CTDi」と同じ2.2Lだが、出力はそれを上まわるようだ。

「i-DTEC」の特長は、三元触媒では対応できないリーン(希薄)燃焼時でも新開発の「LNC(Lean NOx Catalyst)システム」でNOxを処理することだ。アンモニアとNOxを反応させて窒素にして排出するのは、メルセデスなどが採用している尿素による還元システムと同じだが、ポイントは排ガス中の水素(H2)とNOxを反応させ、アンモニア(NH3)を自前で生成すること。そのため尿素水タンクを備える必要がない。このエンジンは時期アコードに搭載されて登場するようだ。

新車排出ガス規制の比較表。測定方法などは違うので、あくまで参考

日産のクリーンディーゼルエンジン「M9R」。日本にも導入される予定

ホンダの「i-DTEC」。アンモニアを自己生成するのが特長

メルセデス・ベンツ E320 CDIに搭載されている3Lディーゼルエンジン

ディーゼルに手を染める各メーカー

マツダは次世代クリーンディーゼルエンジンを展示した。世界初公開となる。コモンレール+ピエゾ式インジェクター+2ステージターボチャージャーという構成だが、気持ちよく高回転まで伸びる特性を目指して開発を行なっているという。

スバルも水平対向4気筒のターボディーゼルエンジンを出品。今春のジュネーブショーなどですでに展示されたものだが、2008年の早い時期に欧州に投入される予定。ディーゼルは振動の大きさが問題になるが、このエンジンは水平対向であるため、バランサーシャフトが無くても振動を抑えることができるという。最高出力は110kW。コモンレールとソレノイド式インジェクターに、可変ノズルターボを組み合わせる。

また、デンソーのブースでは2,000barが可能なコモンレールシステムを展示していた。ディーゼルエンジンがクリーンになった理由のひとつがコモンレールによる燃料の高圧噴射で、圧力が高ければ高いほど燃料を細かい粒子にして、空気とよく混ぜることが可能になる。デンソーは2002年に世界で初めて1,800barの高圧噴射を可能にしたが、今回の展示はそれをさらに発展させたもの。

日本でも効率がよく、クリーンな排ガスのディーゼルが増えることを切に願う。

マツダが参考出品したディーゼルエンジン

スバルの水平対向ディーゼルエンジン。欧州に投入の予定

デンソーのコモンレールシステム。2,000barの高圧噴射が特長

欧州のルノー・セニックに搭載されている「2.0dCi」ディーゼルエンジン

フォルクスワーゲンのTSIエンジン(ガソリン)。TDIも日本で販売してほしい

マツダ・プレマシー ハイドロジェンREハイブリッドのエンジン