日本のイー・モバイル向けに設備や端末を供給する華為技術(Huawei Technologies、以下華為)は、急成長中の通信関連の総合サプライヤーとして世界中から注目を浴びている。しかし業界関係者にはその名前は広く通っていても、一般消費者レベルとなるとまだ知名度は高くはない。華為は各国の通信事業者向けに端末供給も行っているが、自社ブランド品は少なくほとんどが相手先事業者名での販売となっている。では、華為の端末は実際にどのように販売されているのだろうか? その販売実例から同社の端末販売戦略を探ってみた。

二極化した製品ポートフォリオ

華為の携帯端末製品は完全に二極化されていることが特徴である。ハイエンドとローエンド、機能での分類はこの2種類しか無い。このうちハイエンド端末とはW-CDMA/HSDPAなど3Gの方式に対応したUSB接続やPCカードタイプのデータ通信端末であり、下り最大7.2Mbpsに対応した高速版もすでに発売が開始されている。一方、ローエンド端末は各国の携帯電話事業者ブランドで発売されている音声端末で、3Gに対応しているものの、機能的にはエントリーレベルのモデルだ。QVGAサイズの画面やメガピクセルカメラを搭載していても、大手メーカーのハイスペックな端末と比較すると機能に目立つものはない。しかし単価は安く、SIMロックをかけて無料で提供するキャリアも多い。

海外でも3Gの普及が進んではいるものの、利用者側の立場としては通話しか利用しない程度であればわざわざ2Gから3Gへ移行する必要性はなかなか感じられない。また、3G端末の価格が2G端末より高いことも移行のネックになっているだろう。ユーザーの3Gへの移行を促したい通信事業者としては割安で販売できる3G端末が必要なので、コストが安く、自社ブランドで販売できる華為の端末はまさにうってつけの製品といえるわけだ。

現在はVodafoneグループなど大手事業者向けに定期的に端末を提供しているほか、3Gをこれから開始する事業者にはネットワーク設備から端末まで、すべてをパッケージとして提供することも行っている。たとえば香港で3Gに最後発参入したPCCWは華為からインフラや端末の提供を受けており、新規顧客獲得用のプロモーションとして同社の端末を無償で提供している。

またHSDPAモデムなどのデータ通信端末は、消費者からは製品に対する安心感と高いスペックが求められる。華為の製品はキャリアのブランド名を大きく入れることで"キャリア専用・認定品"という安心感を与えるだけではなく、高速なデータ通信速度に即座に対応するなど十分なスペックも備えている。日本ではイー・モバイルユーザーにおなじみの華為の卵型HSDPAモデムは、今では世界中で目にすることができるのだ。

香港で発売されている7.2Mbps対応のHSDPAモデム。携帯電話会社のパッケージで売られており、華為の名称は表示されていない。わずかにモデム本体背面にメーカー名として華為の名前が表示されている

香港でキャリアブランドとして販売されている華為の3G端末。ローエンドだが価格が安いため、3G顧客を増やしたい各国の携帯電話会社の戦略的商品となっている

自社ブランドの構築にはコストをかけない

データ通信製品ではライバル他社にも負けぬハイスペック製品を送り出している華為だが、今後自社ブランドを前面に出し"華為ブランド"を消費者にアピールすることは考えていないのだろうか? 同社コーポレート・ブランディング/コミュニケーション部門担当副社長の胡勇(Johnson Hu)氏は「ブランド力の構築には膨大な費用と時間がかかる」と指摘し、そこにかかる費用は別の用途、例えば端末の開発費やコスト削減に使うべきだと言う。

華為のホームグラウンドである中国国内でも、いまや中国国産メーカーの携帯端末シェアは30%台に落ち込んでいる。そのような状況下で中国メーカーが大手メーカーを追い抜くのは非常に難しく、製品ラインナップの拡充と広告展開に費用をかけたとしても、その効果は知れたもの、というのが実情だろう。これが中国以外となれば、自社ブランドを構築するのはさらに困難である。そうであれば自社ブランド品を消費者に直接販売することを最終目的とするのではなく、通信事業者向けに動作が確実で、かつ価格を抑えた製品を提供することが同社の生き残りの道でもあり、そこに特化することで他社との差別化を図ることができるわけだ。

海外の展示会では同社の端末目当てに世界中の通信事業者から視察者が訪れる

すなわち、華為の携帯端末製品は単独で大手メーカーと勝負を挑むものではなく、同社の"ネットワーク設備からコンテンツプラットフォームまで"というエンドツーエンドのモバイルソリューションビジネス内の1商品として位置づけられているわけだ。なお、今後製品供給を進めていけば、将来は通信事業者からもよりハイエンドなモデルが要求されるだろうし、同社としてもハイエンドモデルを投入する可能性はあるだろう。しかしそうなってもやはり、事業者向けにOEM/ODM供給するという、裏方に徹する姿勢はしばらくは変わらないだろう。