日本プリンタメーカーが中国で本格的に生産を開始

オフィスの至るところで見かけるようになったカラーページプリンタ。各メーカーがしのぎを削ってシェア争いを繰り広げるこの分野では、より高性能でより低価格な製品をユーザに提供するために、生産方法にも多くのアイデアと投資がなされている。その中でもDigital LEDヘッドによるシングルパスによって、高速な印刷とタフな構造を実現した沖データは、世界規模でのグローバル企業戦略を展開しており、その要の一つとなっているのが生産拠点のワールドワイド化である。

沖データのカラーページプリンタ製品の代表モデル。ビジネス用途からグラフィック向けまで、幅広いモデルを生産している。左からA3タイプのビジネスユーザ向けモデル「C8800dn」、コンパクトなA4カラー複合機の「C3530MFP」、A3タイプのグラフィックユーザ向けモデル「MICROLINE Pro 9800PS-X」

沖データはここ数年、計画、調達、生産、出荷といった期間をできるだけ短くして生産コストを抑えると同時に、クオリティの高い製品を迅速に市場へ提供できる「グローバル・オペレーション・マネージメント」体制を進めてきた。その一環として、世界に向けた生産 / 販売体制を本格化していくために、海外にも生産拠点を設置し、生産や運搬の効率化と低コスト化の実現に努めてきた。現在では、従来の福島事業所の他に英国とタイ、中国にも生産拠点があり、技術開発拠点も日本(高崎、福島、八王子)、英国、米国、中国に置かれている。

福島事業所。沖データの国内生産拠点であり、国内向け製品の生産とグローバル生産戦略の立案などを担当する生産部門の中心的な存在である

このように沖データは、同社が掲げる「OKI Printing Solutions」を実現するために幅広い展開を行ってきたが、今年になって新たに中国深セン(しんせん)に新工場を移転 / 開業した。中国に生産拠点を置くということが企業にとってどのようなメリットをもたらすのか、また、中国での工場運営とはどのようなものなのか、その現場をレポートしたい。

多くの海外企業を誘致する中国の都市「深セン」

2008年の北京オリンピック(第29回夏季オリンピック)が開催されることもあり、北京周辺だけでなく中国全土で建設ラッシュと好景気で湧くなか、中でも急成長を遂げている広東省の副省級市(大幅な自治権を持つ重要な地級市)が深センである。1980年に経済特区に指定された特別な街で、30年近くで数十万人の田舎町から現在は1,000万人を超す大都市に発展している。この土地には多くの海外企業の工場が誘致されて軒を連ねており、その中の一つに「Oki Electric Industry (Shenzhen) Co.,Ltd.(沖電気実業(深セン)有限公司)」がある。この地に工場を置いたのは、製品コスト削減と中国販売強化のためだ。

深センの街並。急成長を遂げただけあって街全体は新しい建物が数多く見られる

工場群のすぐ近くにのんびりとしたライチ畑が広がっているのも深センの特徴だ

そもそも深センとはどんな所にあるのだろうか? 実は、香港国際空港から車でわずか数時間の場所にあり、香港と密接な関係にある都市である。香港は、読者の皆さんがご存知のように1997年に英国から中国に返還された特別行政区で、観光地であるとともにフリーポート(基本的に免税で輸入できる)の世界でも有数の流通 / 金融の中心地でもある。返還された現在でも深センとの行き来には出入国手続きが必要で、特に外国人が香港から深センに移動するためには、外国から香港入国した時と何ら変わらないイミグレーションが必要になっている。

経済特区内にある建設中の建物。このような風景が至るところで見られる。右の写真は足場の拡大したもの。なんとすべて竹で組み上げられている。中国では、高層ビルなどの建築現場でも竹で足場を組むのが普通だそうである

このことは、経済交流にも大きな影響を及ぼしている。特に同じ中国という国内でありながら、せっかく免税で輸入した部品や製品を運ぶ際に関税がかかってしまう。つまり、沖データのような進料加工企業(中国国内に外資企業が工場を設置している場合)は、生産の際に海外から部品を調達すると「香港→深セン」の時点で関税がかかり、これではせっかく深センで安いコストで生産しても海外企業にとってメリットが少ない。このような状況では、海外企業を誘致しようにも難しいため、中国政府は「香港→中国」の輸入部品に関しては、加工した製品を100%香港に輸出するという約束で無税にする「保税」という措置をとっている。

しかし、「保税」の原則にも問題がある。それは、沖データが中国国内にある他の進料加工企業が生産した部品を使用したい場合には、「保税」の原則から一度その部品を輸出して再度輸入しなくてはならないからだ。これでは、物流費用と税関手続きの時間がもったいない。そこで、中国には「転廠(てんしょう)」という制度が用意されている。この制度は、「進料加工企業→進料加工企業」に部品を売る場合は、直接中国国内で納品しても書類上はいったん輸出して保税の状態で再輸入したことにできるものである。これらの仕組みを利用することによって、沖データでは中国で進料加工企業として生産するメリットを最大限に活用しているのである。

深センのすぐ隣にある香港。有名な電気街では、階段には沖データの広告が掲載され、プリンタも売られている