分科会Aでは、利用環境の整備に関して、グリッド環境を利用したスーパーコンピュータの活用に関しての発表、および、議論が行われた。その中で、国立情報学研究所が推進している、大学や研究所を繋ぐ学術情報ネットワークであるSINET3の中核に次世代スパコンを位置づけ、全国の研究者から高速通信網を経由して次世代スパコンを利用するという将来展開が示された。

分科会B~Dは、それぞれの分野での利用に関して、現在、スパコンを使ってどのような研究が行われており、次世代スパコンを使ってどのような問題にチャレンジするかという発表と議論が行われた。

分科会Bは、生命統合シミュレーションに関する分科会で、タンパク質の電子レベルのシミュレーションから、細胞、組織、そして器官、生命体という広範なスケールの生命現象をこれらの階層間にまたがってシミュレーションすることにより生体の働きを理解し、健康維持や医療にブレークスルーをもたらすことをターゲットとする分科会である。分子レベルの生命現象をどのようにしてシミュレーションで捉えるかから、全身をCTスキャンし、人体 丸ごと血管モデルを作って循環シミュレーションを行う研究などが発表された。

分科会Cは、航空宇宙・天文・原子力・地球科学をカバーし、ナノとバイオがグランドチャレンジと言われる中で、その他は一まとめという感じの分科会で、多少、気の毒な感じである。飛行機の翼のシミュレーションはコンピュータシミュレーションの草分けであり、航空宇宙はスパコンの開発、利用を先導して来た分野であり、宇宙往還機やエンジンの燃焼など、今後もスパコンを必要とするニーズの強い分野である。また、ビッグバン後の宇宙の巨大構造の形成とか、銀河の形成などは実験室で再現して研究することは不可能で、コンピュータシミュレーションで予測される現象の痕跡が現在の観測と一致するかどうかを検証することが主要な研究方法となっている。

将来のエネルギーとして研究されている核融合の実用化に当たっては、プラズマの閉じ込め時間を長くして核融合エネルギーを効率よく取り出せるようにすることが必須であるが、そのためには核融合プラズマの振る舞いのシミュレーションが重要な役割を果たす。

そして、地球科学に関しては、それを主目的として地球シミュレータが開発されたのであるが、これで終わりということは無く、気象だけをとって見ても、全体的な精度向上から局地的な異常気象の予測まで、よりハイレベルの計算ニーズがある。このように、分科会Cでは、それぞれの分野の専門家から現状と将来の課題について発表が行われた。

分科会Dは計算物質科学という分野の分科会であり、自然に存在する物質の性質をシミュレーションで理解すると言う段階をもう一歩進めて、所望の性質を持つ物質構造をコンピュータシミュレーションで探索し、新物質の開発効率をアップしようという分野の発表が行われた。

次期スパコンによるシミュレーションにより、ポストシリコン時代の次世代ナノ情報・機能材料や医療分野の次世代ナノ生体材料、そして、セルロースを分解してアルコールを作るなどの次世代エネルギー分野の研究開発の加速が期待されている。

分科会Eはナノ統合シミュレーションに関する分科会で、この次世代ナノ統合シミュレーションソフトウェアの研究開発は、生命体統合シミュレーションとならぶ次世代スパコンプロジェクトのグランドチャレンジに位置づけられている。

ナノ電子材料のシミュレーションは、物質を構成する各原子の電子間に働く力を計算するので、現状のスパコンでは数千原子程度の規模の解析がやっとである。数千というと多いように感じるかもしれないが、立方体とすれば一辺に10個余りの原子が並ぶ程度で、とても、トランジスタなどの機能素子をモデル化することは出来ない。これを10万原子程度まで解析できるようにしようと言うのが一つの目標である。原子数ではたかだか数十倍であるが、計算量は電子数の3乗に比例するので、現状のアルゴリズムのままでは数万倍の計算が必要となる。従って、次期スパコンで計算速度が数百倍になる程度では、とても追いつかない。

ナノ生体材料の分野でも事情は同じで、現状のスパコンでは10万原子のタンパク質の振る舞いを100ns程度の時間シミュレートするのがやっとであるが、ウイルスの振る舞いを理解しようとすると1000万原子をマイクロ秒程度の期間シミュレートする必要がある。また、セルロースを分解する酵素の働きをシミュレートする場合も、計算量が膨大で、次世代スパコンでも全く歯が立たない。

これを電子数の3乗比例ではなく、1乗比例に近い計算量となるアルゴリズムを開発したり、重要部分は細かく計算するが、そうでない部分は粗く近似して計算量を減らしたりするなどの手法を開発し、次世代スパコンの能力アップとのあわせ技で、解決しようとしている。

そして、分科会Fでは、産学連携で、企業がどのように次世代スパコンを利用し、イノベーションにつなげて行くかに関しての発表が行われ、新幹線車両の騒音解析の事例などが報告された。それによると、4.8KHzの騒音は、車両の連結部分で乱流が発生し、それが後ろ側の車両のエッジにぶつかる部分で発生していることが分かり、連結部分に全周幌を設け、車両のエッジも丸みをつけることにより騒音を低減することが出来たと言う。

この解析は、「地球シミュレータの戦略活用プログラム」の一環として実施されたものであるが、共同利用の枠組で広く産業界も次世代スパコンを利用できるようになると、より高精度の解析が可能になると期待されている。

そして、2日目の午後に各分科会のモデレータ(座長)による分科会のサマリーの報告が行われた。この発表資料は、このシンポジウムの開催概要のページの全体討議の部分に公開されている。

これらの分科会の中では、利用技術を研究開発するためには、広範な分野の技術者・研究者が連携する必要があり、その仕組みをつくることの重要性が指摘された。また、アルゴリズムやプログラムを開発する計算科学者の育成とキャリアパスの確保が必要であるとの指摘があった。

次世代スパコンを有効に活用するためには、利用に関する技術情報の提供や技術支援が不可欠であり、具体的な運用環境の議論を早急に開始すべきとの指摘がなされた。更に、次世代スパコン1システムが孤立した超高性能マシンとして存在するだけではダメで、その下に大学の計算センターなどがあり、更に小規模なスパコンまで階層的に配置して、利用し易いサイバー・サイエンス・インフラストラクチャを整備することの重要性が指摘された。

最後に、これらの指摘をまとめた提言を採択して2日間のシンポジウムを終了した。なお、この提言の全文もシンポジウムのページの最後に掲載されている。