ジャンボジェットとムーアの法則

パット・ゲルシンガー氏

インテルは9月28日、9月中旬に米国サンフランシスコで開催された開発者会議「Intel Developer's Forum(IDF)2007 Fall」の概要を紹介する記者向け説明会を開催した。米Intelの上席副社長兼デジタル・エンタープライズ事業本部長のパット・ゲルシンガー氏が来日して説明を行った。

今回のプレゼンテーションでの工夫は、航空業界の進歩と半導体技術の進歩を比べてみる、というもの。その後、新世代機もいくつか登場しているものの、現在でも大量輸送の主役であり続けているボーイング747(いわゆるジャンボジェット)の初就航が1970年で、最初のマイクロプロセッサとされる4004の登場とほぼ同時期に当たることから、その後ムーアの法則に沿って発展を続けてきた半導体と同じペースで航空機が進化したとしたら、現在はどんな形になっていると想定されるのか、というたとえ話を通じて、半導体の進化のペースがいかに驚異的なものであったかを印象づける、という趣向であった。初期の747の乗客数は452名で、乗客の登場に1時間を要していたが、ムーアの法則が適用できるとすれば、現時点では1億1,800万名の乗客を12ミリ秒で搭乗させ、ロンドン - ニューヨーク間を8分で飛行し、消費する燃料は2.4リットル、ということになる。もちろんあり得ない想像なのだが、既存の技術の進化のペースに比べていかに半導体が急速な進化を遂げているかをわかりやすく説明するには面白い手法であったといえるだろう。

この話を踏まえつつ、ゲルシンガー氏は「プラットフォーム機能」「I/Oイノベーション」「優れたエネルギー効率」の3つのテーマで、IDFで公表された新情報や将来に向けた取り組みの現状などを次々と紹介していった。

インテルが取り組むエンタープライズイノベーション

プラットフォーム機能に関しては、ハードウェアによる仮想化サポート機能がまず紹介された。インテルがハードウェアレベルで実現している「トラステッドエクゼキューションテクノロジー」や「バーチャライゼーションテクノロジー」を利用することで、ソフトウェアのみで仮想化を実現した場合に想定される懸念要素を解消し、安定したセキュアな仮想化環境を実現できるとされた。

インテルの仮想化への取り組み

I/Oイノベーションでは、間もなく製品出荷が開始されるPCI Express 2.0に続く第3世代として、PCIe 3.0の規格化作業が順調に進捗していることが紹介された。現時点での予定では、2009年に規格が固まり、2010年には製品出荷が開始される予定だという。さらに、USBについても次世代のUSB 3.0の規格化が進行中で、銅配線と光配線を併用し、USB 2.0の10倍以上の性能を実現しつつ、後方互換性も確保するという方針の下、2008年前半の規格化を予定している。

PCIe 2.0から3.0へ

USB 3.0

また、エンタープライズ系のファブリックの整理統合のプランも紹介された。エンタープライズシステムでは、情報通信用にGbE LANが、ストレージ接続にFC-SANが使われるのが主流だが、この2種類のネットワークファブリックの混在状況を解消するアイデアとして、FCoE(Fibre Channel on Ethernet)を利用してSANとLANをまとめてEthernet上に集約する、という方向性が示された。同様のアイデアに基づく取り組みはすでにiSCSI(IP-SAN)として実用化されているが、FC-SANの簡便な代用手段といった位置づけに留まっている。FCoEはさらに積極的な統合を実現することでFC-SANそのものを完全に代替することを視野に入れている点で、iSCSIとは大きく異なっている。FCoEソフトウェアソリューションスタックは2008年中にリリース予定とされており、エンタープライズユーザーにとっては気になる動向ではないだろうか。

I/OをEthernetに統合

最後のエネルギー効率の部分のメインテーマは、同社が開発モデルとして掲げるTick Tock(チックタックモデル)に沿ったプロセッサのロードマップだ。すでに報道されているとおり、11月12日に45nmプロセスで製造される次世代プロセッサファミリ「Penryn」(コード名)が発売される予定だ。これが「Tick」フェーズで、続く「Tock」フェーズとなるNeharemでは45nmプロセスを使いつつ、コアアーキテクチャが大幅に刷新される。これも既に報道されているとおりだが、Nehalem世代ではプロセッサ間の接続が共有バス型(FSB)からQuickPathによるポイント間接続に変更されるとともに、メモリコントローラをプロセッサに内蔵してメモリとプロセッサを直結するという、大幅なアーキテクチャの変更が行われる。現在の予定では、Penrynが2007年、Nehalemが2008年に登場予定だ。

インテルの「TickTock」モデル

Nehalemベースのシステムアーキテクチャ

続く2009 - 2010年のサイクルでは、2009年に32nmプロセスのWESTMERE、2010年に同じく32nmプロセスのSandy Bridgeが投入されるというロードマップも示された。これらの詳細までは触れられなかったが、サイクル通りということであれば、WESTMEREはNehalemを32nmプロセスにシュリンクしたものとなり、Sandy Bridgeはまた新しいアーキテクチャに移行することになるはずだ。

32nmの"Sandy Bridge"は2010年に投入予定

Climate Savers

このほか同氏は、エネルギー問題に取り組む自然保護NGO、WWFが進めるプログラム"Climate Savers"の進捗についても紹介を行った。メンバー企業は、電力効率に優れた製品を開発すると同時に、自社でも電力効率に優れた機器を利用していくというもの。その取り組みの1つとして、コンピュータの電力効率の改善に取り組んでいるという。同氏が挙げた具体例では、現在のコンピュータの電力利用効率は約50%ほどで、供給された交流電源を直流に変換し、電圧変換を行う過程で50%が喪失しているという。この変換効率を80 - 90%程度に高めることを目標に現在開発を行っているそうだ。Climate Saversプログラムに関しては、同日付で日本語サイトもオープンしたことも紹介された。

電圧変換時に50%の電力が喪失している