仮想世界における"サクラ"需要

サクラ行為は仮想世界でも横行中。実世界の世知辛さも自然発生していくのがセカンドライフだ

セカンドライフ(Second Life)でお金を得るための方法のひとつが「キャンプ」といわれる労働です。アバターを滞在させるだけでお金をもらえるシステムのことです。たとえば、椅子に座ってキャンプするところでは、アバターを椅子に座らせているだけで、わずかながらでもセカンドライフ内の通貨「リンデンドル」を入手することができます。

キャンプ設置者がお金を使ってまでキャンプを設置する理由は、どういう理由であれ、人が集まっていると「トラフィック」という指数が上がり、いかにも人気スポットのように見えるからです。人が人を呼ぶ"サクラ"の効果は、この世界でもあなどれません。

キャンプに座る側からすると、たとえ15分間2リンデンドル(現実のお金に換算すると時給数円程度)といった(安い)相場であっても、クレジットカードを使わずにリンデンドルを入手できる点はメリットです。実体験でいえば、1時間ほどのキャンプなら、友達とチャットしたり、「持ち物」を整理したり、セカンドライフの情報などをネットで探したりしているうちに経過してしまうので、慣れるとそんなに苦痛でもありません。

ちなみに、トラフィックの高いショッピングモールと低いモールとでは、ショップの賃貸料金が異なり、筆者の知人たちのショップを見ると、10倍近い差がついています。なので、出店する方としては、サクラでトラフィックが釣り上げられると賃貸料も上がってしまい、たまったものではありません。そこで、アバターがキャンプに座っているだけ(サクラ行為)なのか、動いているアバターなのかをチェックする高額のガジェット(スクリプト)も売られています。もちろん、そうしたガジェットに対抗すべく、モール側も動いています。たとえば、キャンプの椅子の場所を毎日変えることで、キャンプにやってきたアバターたちに椅子探しで強制的に歩かせるのも、ひとつの方法です。


時給数円で働くアバターの正体とは

さて、今年7月にギャンブル施設が全面禁止になり、割のいいキャンプがどんどん消滅していったなか、8月に「10分間3リンデンドル」という美味しいキャンプが、ひとつ誕生しました。資金の出所はリサーチ会社のようで、キャンプ場をウロウロしているとアンケートが渡され、それに答えると100リンデンドル以上が支給されたようです。アンケートを埋めるには、個人情報を提供しないといけないので、ある程度の額を給付されて当然です。ただし、アンケートの主な対象者はアメリカや欧州圏の住人のようで、日本からの参加者向けのアンケートはほとんど見つけられませんでした。

このキャンプ場は、開設するやいなや、いわずもがなの大人気。この大勢の列を見てみてください(写真1)。残念なことに、こういった「人気スポット」は、開設者の予期しない参加者もやってきます。そのひとつが、プレイヤーが操作するのではなくプログラムで動かされるアバター、いわゆる「ボット(bot)」です。筆者がこの美味しいキャンプ場を見つけてから2日後、ここはボットさんだらけになってしまいました(写真2)。

【写真1】アバターが並んでいるのは、アンケートを提出してボーナスをもらうため、というのはウソです。キャンプの配置を列にして、椅子に座らせる代わりに順番待ちのポーズをとらせているからです

【写真2】デフォルト姿のアバターたちが、みんな9リンデンドルを稼いでいます。なお、灰色のアバターが多いのは、混雑しすぎていてデータがなかなかダウンロードできないため(ダウンロードする前に、この画面をキャプチャしました)

セカンドライフと同様に、オンラインでアバターを使うMMORPG(多人数同時参加型オンラインRPG)では、自動的にアイテム収集などを行うボット行為やそのボットが集めたアイテムの売買が深刻な問題になっていると聞きます。

セカンドライフで筆者が初めてボットに出会ったのはこの7月末だったと思います。なじみのキャンプ場に出かけてみると、同じ容貌のアバターたちがキャンプの椅子を占領し、せっせと小銭を稼ぎ続けていたのです。

ボットさんたちは多くの場合、初期設定の姿のままです(着飾る必要はないですから)。名前が連番のこともあります(なにゆえ、そんなにこれ見よがしなのか不思議です)。そして、いっせいに活動をはじめます(リアルライフでだれかが活動を始めたのでしょう)。一度ゲットしたキャンプ枠は絶対にゆずりません(人間の操作ではかなわない速さ、つまりプログラムで再キャンプを始めますから)。


夏の終わりとともに、ボットさんがころんだ?

前出のリサーチ会社のキャンプ場は、このあとすぐに対策を始めました。よくある方法ですが、キャンプを始めた直後や数分後にアバターのもとに確認メッセージなどが届き、それに反応しないと、キャンプが始まらなかったり中断されたりする、といったものです。

それにしても、セカンドライフでボットって割に合うのでしょうか? 仮に1時間20リンデンドルの優良キャンプにボットを送り込んだとして、1日12時間働かせて240リンデンドル。ボット10体を使えば2,400リンデンドル、日本円にして1,000円ちょっとの日給です。筆者としては、ボットを操る知識や苦労、自国通貨に替える手数料などを考えると、少なくともセカンドライフのキャンプでボットを使うのは儲けのいい仕事には思えません。

ちなみに、筆者の本当にささやかな行動範囲での体験ですが、最近(9月下旬)はボットを見かけなくなりました。たまたま筆者が利用するキャンプの設置者によるボット対策の効果があったためなのか、MMORPGでのボット稼業に味をしめてきた組織によるセカンドライフへのボット送り込み作戦が夏の終わりとともに終了したのか、いまもってわかりません。