ヘッドマークを付けた記念撮影用の車両などを見ながら、次に向かったのは日々の点検や短周期の検査を行う臨修庫。工場のような大きい建物だ。まず目に付いたのは、本物の運転台で行う「電車でGO!」。車両センターの方の指導のもと、無料で体験できるとあってかなりの待ち時間だ。この日は諦めたが、他のイベントで体験したとき、家庭用ゲーム機とは全然勝手が違う上、ギャラリーの熱い視線に緊張して無惨にもゲームオーバーしてしまったことのある私。運転士さんの大変さを痛感した瞬間だった。しかし、未来の運転士さんとおぼしき子供たちはとても上手。好きこそ物の上手なれとはいうが、全くその通りである。

前照灯が付くとひときわかっこいい

検査、点検を行う臨修庫。立ち入り禁止区域では溶接の火花が散っていた

そして、こちらも大人気、「レールスター」体験乗車。ただし、山陽新幹線の車両のことではない。線路のメンテナンスをする時に使う小さい乗り物のことなのだ。こちらも待ち時間が長くて今回は諦めたが、これまた他のイベントで体験した時の感想を述べると、遊園地の乗り物のように加速とブレーキのききがよくて、独特の乗り心地だった。しかしレールスターはさすがの私も子連れでないとちょっと気が引けてしまう……。他には、横須賀駅周辺の航空写真や往年の名機関車たちの形式写真(車両全体の様子が1枚でわかるように工夫して撮影された記録用の写真)などの年代を感じさせる写真の展示、Nゲージの運転コーナーがあり、待ち時間を除けば1時間ほどで一周できた。ファミリーならこれで十分満足して帰宅するだろう。しかし、鉄子の真骨頂はこれからである。フフフ。

「電車でGO! 」コーナー。うまく運転できたかな!?

車両センターで「レールスター」といったらコレ!

洗車される成田エクスプレス

休憩用の横須賀線E217系。珍しい方向幕を出す粋なサービスもあった

道路も線路も走れる高所作業車の実演

大人も子供もみんな大好き! Nゲージ

鉄道施設の細部に迫る!!

小学校の頃、先生に引率されて行ったパン工場や缶詰工場の見学がいい思い出になっている人も多いのではないだろうか。また、大人向けの見学コースがある酒蔵なども近年人気と聞く。鉄道施設の一般公開も、それらと同様に知的好奇心を刺激する魅力がある。ただし、鉄道施設では誰も引率してくれない。しかも個々の展示物には簡単な説明書きがある程度。鉄道施設で楽しめるかどうかは自分の鉄ちゃん度、いや教養(!?)にかかってくるのだ。

ファミリー向けの一般公開では、専門的な知識が必要とされるようなスペースは空いており、鉄ちゃんにとってはありがたい。のんびりと鉄道施設を堪能できる。私自身、最初はレールスターや運転台体験が楽しくて、友人親子を誘って一般公開に行っていた。しかし回数を重ねるうちに、鉄道が安全に運行されるためには不可欠である車両センターでの仕事場としての緊張感、本物の迫力に魅かれるようになった。ここで一気に、私の鉄子指数が高まっていったのは言うまでもない。

部品展示コーナー。懐かしい方向幕に、孫を連れて来たおばあちゃんも見入っていた

成田エクスプレスを動かしているモーター。一部切り取って中を見せているのは教習用か?

電車の屋根に付いていたクーラー

人とは違うところに注目している教養あふれる(!?)鉄ちゃんは意外に多いもので、中には私のような女性や、中学生くらいの子供もいる。車止めや架線を熱心に撮影していた人がいたが、三脚に貼ってあったステッカーから模型ファンだと推測できた。そして、臨修庫では主に団塊世代の鉄ちゃんたちが天井にカメラを向けていた。「一体何があるのだろう!?」と見てみると、そこには「国鉄 浜松工場」との銘版が入ったクレーンがあった。「国鉄」の2文字は、ある世代以上の鉄道ファンにとっては特別の意味を持つのだ。しかも、今は鎌倉車両センターとは別会社になってしまった浜松工場のものとあって感慨もひとしおだ(鎌倉車両センターはJR東日本、浜松工場はJR東海管轄)。「国鉄」の名のもとに、同じシステムで最果てまでつながる鉄路があった古きよき時代。耐用年数の長い重厚な車両ばかりだった時代。広い機関区、機関車が客車を牽引する客車列車……etc. もちろん、民営化には民営化のよさがある。しかし、国鉄へのノスタルジーは、分割から20年経った今も募るばかりである。工場の天井を見ただけで果てしなく思い出に浸れる自分に、またちょっと感動する(オイオイッ)。

Nゲージ部屋の壁には、古い写真を展示

天井のクレーンで発見した「国鉄 浜松工場」の文字。もう民営化して20年。懐かしい雰囲気の書体に時の流れを感じる。嗚呼……