3月に東京大学とマイクロソフトが共同で立ち上げた「DO-ITプロジェクト」。障害のある若者に対する高等教育、キャリア構築の実現を支援するための学習支援プロジェクトだ。障害者が大学で学び、企業に就職するためのスキルを身につけるなど、障害者の自己実現を支援することを目的としている。25日からプロジェクトの第1回目となる大学体験プログラムが開始され、26日にはマイクロソフト本社内において企業見学とコンピュータ実習などが行われた。全国から、障害のある若者12人がプログラムに参加した。

DO-ITプロジェクトは、米国ワシントン大学で始められた障害のある高校生向けの学習支援プログラムで、1993年から毎年実施されている。ワープロソフトや読み上げソフト、音声認識などのIT技術を活用することで、障害者でも高等教育を受けられるように支援することが目的だ。

米国では、2003~2004年に大学に在籍していた障害のある学生は200万人を超えており、全学部生の約11%を占めている。手書きできない障害者のために、入試や試験でPCの利用を認めたり、介護者が試験問題を読み上げることを認めたりするなど、大学側の配慮も進んでいる。

それに対して日本では、大学・短期大学・高等専門学校に通っている障害者の数は、2006年度で4,937人、全学生数に対する割合は0.16%(日本学生支援機構調べ)と少なく、障害学生がまったくいない学校が497校もある。

中邑賢龍・東大特任教授

日本でのDO-ITプログラムを率いる東京大学先端科学技術研究センターの中邑賢龍特任教授は、「こうした状況を打破しなければならない」と指摘。「入学試験において障害者のワープロ持ち込みを認める配慮が一般的」(中邑教授)という米英両国に対し、日本の大学は「字が書けないと入学できない」(同)ため、入学する障害者が少なく、障害学生数が少ないから障害者に対する配慮がされないという「悪循環がある」(同)。

そもそも、大学進学を目指す障害者の数が少なく、たとえば高校でも、「入試で使えないから」という理由で、障害者に対してワープロを学ばせないという状況があるという。また、これまでは障害者の受入数が多い大学が障害者に選ばれる傾向が強く、入りたい大学があっても、実績がないため障害者があきらめるケースもあったそうだ。中邑教授は、「大学が変われば門戸が広がる」と指摘し、大学が変わることで高校、中学校なども変わるのではないかと話す。

とはいえ、大学内にバリアフリー支援室を設置し、「手厚いサービス」(同)も提供している東大でであっても、障害学生数は大学院生も合わせて10人と少ない。東大の入試では申請があれば「ワープロの使用なども認める」(同)とのことで、障害者に対して門戸を広げているところだ。

今回、新たに設立された任意団体DO-IT Japanには、東大だけでなく早稲田大学や日本福祉大学、広島大学大学院などからも役員が参加しており、このプロジェクトを通じて「多くの大学を巻き込んで」(同)、大学を変えていくことが狙いだ。

DO-IT Japan第1回目の取り組みは5日間にわたって行われ、初日は東大においてオープニングイベントや東大の研究員による講義などが行われた。2日目の26日、マイクロソフト内にて企業見学とコンピュータ実習が行われた。

参加したのは高校生ら12人の障害のある若者。全国から応募のあった40人の中から、志望動機を重視した書類選考で選ばれた。

この12人が大学に入学することが目的ではないと中邑教授はいう。大学側から門戸を広げていくだけでなく、障害者側からも声を上げ、大学を変えていくような「流れを作り出したい」(同)考えだ。

5日間のプログラムの後は、メーリングリストを作り、参加した若者たちを中心に意見交換の場を作り、さらにアドバイザーとして専門家などもメーリングリストに参加する。来年以降のDO-IT参加者たちもこれに参加していき、障害のある若者たちのネットワーク作りを狙っているのだという。

さまざまな障害のある若者たちが集まり、交流することで、より幅広い見地から意見が言えるような人材が育成されるとの期待もあり、その中から実際に大学を出て、企業に就職し、「障害者が働くことで会社を変え、社会を変えることにつながる」(同)との未来像も描く。

中邑教授は、障害者の雇用に積極的な企業はあるが、高等教育を経た障害者が少ないために実際には雇えないという現状を示し、今後のDO-ITプログラムによる成果に期待を寄せる。

ダレン・ヒューストン社長

共催として参加するマイクロソフトは、もともと米本社のMicrosoft自体が米国のDO-ITに協力しており、今回の日本版DO-ITにも積極的にかかわってきた。プログラム内容の共同検討や、IT技術の共同研究、ソフトウェア・資金の提供を行うほか、今回障害のある若者の企業訪問に協力した。

マイクロソフト自身、障害者の雇用は10人程度と少ないが、開発にも携わっており、障害者の意見によるユーザビリティ機能は、今後増える高齢者にも優しい仕組みとなるため、プラスの効果を強調する。

12人の若者を前に、マイクロソフトのダレン・ヒューストン社長は、IT技術でデバイド乗り越えてもらいたいとコメント。「マイクロソフトに(社員として)戻ってきてください」と、このプロジェクトを通じて若者たちがスキルアップすることに期待感を示していた。

なお、今回のDO-IT Japan 2007は、任意団体のDO-IT Japan・東大先端科学技術研究センターが主催し、共催としてマイクロソフトら、協力として富士通やソフトバンクモバイルらが参画している。米国のDO-ITは夏休みを利用した2週間のプログラムであり、日本でも今後はプログラムを拡張していきたい考えだ。