クエンティン・タランティーノ監督最新作は、ロバート・ロドリゲス監督との共同企画「グラインドハウス」の1本。グラインドハウスとは、1970年代に米国にあった、チープなB級エログロバカ映画を2、3本立てで上映する映画館のこと。……日本にも似たようなのあったよ。これを現代に蘇らせようというのが今回の企画「グラインドハウス」だ。

なぜチアガール? タランティーノの趣味なのか

要するにタランティーノとロドリゲスが1本ずつ撮って、2本立てで上映するという企画なのだが、単にB級映画を2本並べただけじゃなくて、当時の雰囲気を再現させているのがミソ。たとえば、フルデジタルで撮ってるくせにフィルムのキズやノイズをワザとつけたり、コマ送りになったり止まったり、あげくの果てには白黒になるわ、途中でフィルム切れ起こして場面は飛ぶわとやりたい放題。それでもちゃんと演出効果を計算してやってるところは流石タランティーノだが……。またお遊びとして、2本の間に実際にはないバカ映画の予告編を入れたりしている(詳しくはロドリゲス監督の『プラネット・テラー in グラインドハウス』のレビューを見てね)。オマエらはどこかの映画同好会か!

おっと『デス・プルーフ』の中身のことも書かないとね。これもやはり1970年代テイストで固めていて、ネタ元はカーアクション映画。『バニシング・ポイント』、『バニシング in 60』(こんな映画ここの読者は知らねーだろーなあ。1970年代には結構流行ったんだけどね)といった、CG一切なしで実車を壊しまくるカーアクション映画を徹底的にパク…いやリスペクトしたものだ。話の舞台は現代らしいのに、わざわざ当時の映画で使ったのとカラーリングまで同じクルマを持ってきて、黒煙吐きながらエンジンふかしまくってブツけて壊す。地球にやさしくないです。

タランティーノ作品はどれもそうだが、ストーリーらしいストーリーは無い。だいたいがクスリでアタマ弱ったようなギャルのグダグダな会話で進むのだが、これがとにかく長い! 会話の中身に妙なオタ知識が混ざっているのもタランティーノ映画の基本だ。今回は前半は音楽ネタ、後半は1970年代カークラッシュ映画ネタが中心で、どちらもイマどきの女子が知ってるわけねーだろ! みたいな内容。かかってるBGMもかなーりマニア度高そう。さらにこの映画ではタランティーノが撮影監督までやってて、カメラワークがくどい! カメラが腰から上にぜんぜん向かず、女優の足の先から尻をなめるように撮る。まったくいい加減にせいこのヘンタイ! 我慢できずに映画館出たくなる人もいるんじゃないの?

バッド・ガールズグループのリーダー的存在が手前のジャングル・ジュリア(シドニー・タミーア・ポワチエ)。奥のアーリーン a.k.a"バタフライ"(ヴァネッサ・フェルリト)が劇中で見せるラップ・ダンスはエロすぎです。必見!

いいかげん我慢の限界に達したころに話が急展開する。クルマに乗った殺人鬼の登場だ。予想のつく展開ではあるけど、その前があまりにもまったりしていたので効果は大きい。このギャップがタランティーノファンにはたまらないんだろうね。ちなみに「デス・プルーフ」というのは「ウォータープルーフ(防水)」のように「防死」ということ。殺人鬼のクルマが「デス・プルーフ」になっているので、いくらぶつけても自分は死なずに相手だけ殺せるという意味らしい。そんな犯人=スタントマン・マイクを演じるのがカート・ラッセル。たしかに最初は片目の殺し屋役で世に出たかも知れないが、そろそろ老境にさしかかろうというのに、この役は原点に戻りすぎだろ? しかも、これまで役者として積み上げてきたものが……な展開! 良いのかラッセル!

これが"耐死"仕様の殺人カーだ

見よこの「腹に"百"物」な顔! この後、ペロッとやった指で足を撫でるのだ。変態!

パム(ローズ・マッゴーワン)が変態の魔の手に?

かたやスタントマン・マイクと対決する女性軍は濃い顔の美人揃いで、みんな足が綺麗。足見てオーディションしたのかな? 代役ナシのカースタントをこなす主演のゾーイ・ベルは、『キル・ビル』でユマ・サーマンのスタントをやってた人。今回演じているのは"自分の役"だ。役名もゾーイ。しかし『キル・ビル』のときよりかなり「頼もしい」体格になったのでは? 今じゃユマ・サーマンの吹き替えは難しそうだ。

右からリー(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)、アバナシー(ロザリオ・ドーソン)、ゾーイ(ゾーイ・ベル)、キム(トレイシー・トムズ。右の2人は超がつくほどのクルマオタク。やることなすこと男前なのだ

もちろんタランティーノ自身も出演しているが、この映画よりもロドリゲス監督の『プラネット・テラー』でのほうが活躍度高い。まあこれで自分が出しゃばるようじゃ個人映画になっちゃうもんね。そういえば、この「グラインドハウス」の2本両方に"同じ役"で登場する人物がけっこういるので、両方チェックするとより楽しめます(違う役で両方に出ているのはタランティーノと「プラネット・テラー」のヒロイン役ローズ・マッゴーワンだけ)。

なお、「グラインドハウス」の2本はどちらも100分オーバーの長尺。「そんなに長いの続けて見てらんない」ということで、米国外では上映期間を変えて別々の上映となっている(※東京/大阪で8月24日~31日の8日間限定で2本立て上映する映画館もあり)。

『デス・プルーフ in グラインドハウス』は9月1日よりロードショー。配給はブロードメディア・スタジオ