米国で無線ブロードバンド事情にまた新たな動きが出つつある。自治体が市民サービスの一環として、無線LANによる市域全体をカバーするインターネット接続網を開放したり、Googleなどの私企業が広告ベースで無線LANインフラを無料提供するなど、様々な試みが進みつつある米国だが、次なるステップはさらにその接続エリアを拡大するものとなる。

ClearWireとSprintが全米をカバーするWiMAX接続網整備で提携

米ClearWireと米Sprint Nextelは7月19日(現地時間)、全米をカバーするWiMAXネットワーク構築で提携を発表している。Sprint Nextelは全米第3位の契約ユーザー数を持つ携帯電話キャリアで、CDMA技術をベースに全米に携帯電話サービスを提供している。一方のClearWireは世界的にも珍しいWiMAXサービス専業ベンダーで、米西海岸や南部などの大都市を中心にWiMAXによるインターネット接続サービスを提供している。今回の発表は互いにサービスインフラを共通化してローミングを容易にすることで、米国全土をWiMAXのカバーエリアにすることが狙いだ。

現状、2008年末までの計画ベースで両社を合わせたカバー人口は約1億人だという。これを基地局増設や、2.5GHz帯の適切な周波数交換を組み合わせてエリアを拡大し、Sprint側が全米人口75%にあたる約1億8,500万人を、ClearWire側が約1億1,500万人をカバーし、全米ユーザーにWiMAXサービスを届けようというものだ。最終的な合意は発表日から60日以内に締結し、米司法省(DOJ)のレビューを経て実行に移す見込みだという。3Gサービスは都市中央部限定など、高速無線インターネットでは日本や韓国などに後れを取る米国だが、WiMAXの全米展開で都市と地方の差を吸収して、一気にトップクラスのインフラを持つ国になる可能性が出てきた。

「Wi-Fi + 携帯」「Wi-Fi + DSL」の複合サービスも登場へ

米国では1つの通信事業者が契約回線からDSL、携帯電話など複数のサービスを提供していることが多いため、「DSL + 携帯」をセットにして割り引きで提供するパッケージ販売が行われることもある。こうしたセット販売のメニューに「無線LAN(Wi-Fi)インターネット」が加わるのも、ごく一般的なことになるだろう。

iPhoneを独占販売したキャリアとして知られる米AT&Tは7月2日(現地時間)、同社が全米に展開する無線LANホットスポット約1万カ所を、同DSLサービスを契約するユーザーに無料で開放すると発表した。

同社は空港やMcDonald's、書店チェーンのBarnes & Nobleなどを中心に全米にホットスポットサービスを展開する。対象となるのはAT&T Yahoo! High Speed Internet ProまたはEliteを契約するユーザーで、7月6日より無料開放がスタートしている。これで前出のバンドルサービスでDSLと携帯の両方を契約しているユーザーは、iPhoneを使って自宅やホットスポットでは高速なインターネット接続、それ以外のエリアでもEDGEネットワークを使ってのインターネット接続が可能になる。

一方でライバル企業も負けてはいない。全米第4位の携帯キャリアT-Mobile USAは6月27日(現地時間)、同社の無線LANホットスポットを介して携帯電話の呼び出しが可能な新サービスの提供を発表した。

これは同社が本拠地の米ワシントン州シアトルで実験的に提供していたサービスで、ホットスポット経由でのIP電話利用が可能となる。また、D-LinkやLinksysなどのサービス対応機器を家庭に設置することで、自宅での通話をIP電話ベースにし、時間無制限での通話を可能にする。もちろん携帯端末を外に持ち出すことで、そのままシームレスに既存のGSM網で通話を継続することもできる。1ユーザーは月額9.99ドルで、最大5人のファミリープランは19.99ドルで利用可能だ。T-MobileはStarbucks Coffeeや空港などを中心に全米約8,500カ所にアクセスポイントを展開するキャリアだが、「携帯 + Wi-Fi」を実践する新たな試みとなるだろう。

Googleは46億ドル投資で無線ネットワーク網を拡充へ

前述のように広告ベースで無料の無線LANインターネット接続サービス展開を図る米Googleだが、同社は7月20日(現地時間)、米国での無線周波数帯獲得と無線ネットワーク整備のために46億ドルを投資すると発表した。GoogleはOfficial Blogのエントリの中で、「一部のごく少数の企業に携帯通話やデータ通信向けの周波数帯が占有されている」と訴えており、米連邦通信委員会(FCC)が実施する周波数オークションに対し「オークションの勝者がだれであっても"オープン"なプラットフォームを実現すること」を訴えつつ、自身も700MHz帯のオークションに参加する意向を示した。同社によれば、この周波数オークションは過去最大規模のものになるという。

「Google Phone」などの提供も噂される同社だが、もし周波数オークションで700MHz帯の獲得に成功すれば、検索やアプリケーションサービスの提供プロバイダであると同時に、インターネット接続/データ通信サービスの提供プロバイダにもなる。

Googleがオークション参加でどのようなサービスを提供するのか。その詳細は不明だが、「ブロードバンド接続サービスの提供競争が過熱する一方で、すべてのユーザーにインターネット接続を提供するにはまだ壁が立ちふさがっている」とBlog上で述べているように、携帯または専用端末等を介して、何らかの形で無線インターネット接続サービスを提供していくものだと考えられる。Googleにとってはインターネット利用者が広がることこそが自身の最大の収入源である広告の機会拡大につながり、よりビジネスチャンスを広げるものだからである。