輸入コンパクトカー市場でトップクラスの人気だったプジョー206シリーズの後継モデルが207。今回ラインアップに追加されたのはもっともスポーティな207GTiだ。先行して発売されていたGTは1.6Lターボで150馬力/24.5kgmのスペックだが、ハイパワー版のGTiは同排気量で175馬力/24.5kgmを絞り出している。このエンジンの特徴はPSAプジョー・シトロエングループとBMWグループとの共同開発という点だ。BMWは同エンジンをミニに搭載している。

実は先代のミニはクライスラーが開発したエンジンを搭載していた。BMWは新型を開発するにあたって、コストが厳しいコンパクトカー用のエンジンを共同開発するパートナーを探していた。ウイン・ウインを確認できたPSAプジョー・シトロエングループとターボチャージャー付きの1.6L直4DOHCエンジンを開発したというわけだ。207GTとGTiでは25馬力の差があるが、これはおもに過給圧の違いで高回転域のパワーを稼ぎ出している。もちろん熱量がアップするため専用ピストンの採用や吸排気系の変更を行っているが、基本はGTとGTiは共通だ。最大トルク自体も同スペックだが、GTiにはスポーティモデルならではの"隠し球"があるのだ。それがスクランブルブースト(オーバーブースト)。一定条件を満たせば過給圧を1.8バール(絶対圧)から2.0バールにまで高めてくれる。条件はフルスロットル時で、ギヤが3速以上、水温が90度以上、エンジン回転が1600回転から4500回転のときだという。

BMWと共同開発したターボエンジンはミニにも搭載されている。207GTはパワーを抑えた仕様で207GTi用はハイパワー仕様だ

これがターボチャージャー。一定条件を満たすと過給圧を一時的に高めるスクランブルブーストを採用している。このターボのすぐ近くにインタークーラーがあるため高温時の効率はあまりよくなさそうだ

ワインディングでプジョーのスポーティモデルの走りを試した。サスペンションはそれなりに固められているが乗り心地は悪くなく、大きな段差を乗り越えるとき以外はよくショックを吸収してくれる。さすがにサスヘの入力が大きいと突き上げ感があるが、よくできたシートのおかげで不快な思いをしなくてすむ。写真を見てもらうとわかるが、この本格的なバケットシートのデザインは"レカロ"に似ているが、実はプジョー傘下のシートメーカーが作ったものだという。"猫足"と呼ばれるしなやかなサスで定評があるプジョーだが、シートの作りもこうした乗り心地に貢献しているわけだ。

オーソドックスなデザインだが、スポーティさを感じさせる3スポークステアリングやメタル仕様のペダルをさいようするなどポイントを押さえている

シフトのストロークやノブの形状などは問題ないが、1速から2速にシフトする素早い加速時にギヤ鳴りがすることがある。シンクロ容量が足りないようで、同じ症状は以前試乗したGTでも確認できた

ローパワーターボのGTに試乗したときにはヒール・アンド・トゥがやりにくかった が、今回試乗したGTiはまったく問題なしだった

乗り心地をチェックした後はスポーティモデルらしい走りがどうかという点だ。フルスロットルで加速するとGTよりも明らかに動力性能が一枚上手。GTでは高回転域でパワーをわざとドロップさせて最高出力を調整していたため、スポーティな加速フィーリングは今一歩だった。それに対してGTiは6500回転から始まるゼブラゾーンまでパワーが伸びる感じがあって気持ちがいい。だが、3速以上の例の条件下でもスクランブルブーストがかかったような感じがしないのだ。当日は気温が高く、ターボエンジンには厳しい条件。それにGTiのエンジンルームを見るとインタークーラーはタービンの横に設置され、専用のファンまで付けられているから熱的には相当苦しそうだ。気温が低い冬ならばスクランブルブーストのパワー感が味わえるかもしれない。

GTよりもパワーアップされた

ユニークなデザインのエキゾーストエンド。低い音に調律されているが排気音のボ リューム自体は小さくうるさくない

パワーを楽しみつつコーナーをクリアするうちにわかってきたのは、ESP(姿勢安定化装置)の制御がちょっとうまくないということ。装着されているブリヂストンのポテンザ050Aのグリップ性能でかなりスポーティなコーナリングが楽しめるのだが、それは路面がきれいな良路に限られる。路面が荒れているコーナーでステアリングを切り込むとESPはブレーキを使って積極的に曲げようとしてくれるのはいいが、ヨーが発生しすぎて次の段階はエンジン出力を自動的に絞るからコーナーの立ち上がりでパワー不足に陥る。安全方向に大きく振ったセッティングといえばそれまでだが、スポーティモデルとしてはもう少しがんばってもらいたい。

装着タイヤのブリヂストン・ポテンザ050A(205/45R17)はグリップがよく、限界時のコントロール性もいい

このセッティングに対処するにはFFの基本運転に徹することだ。FFは駆動輪と操舵輪が同じだからなるべく舵角を与えない走りが有効。コーナーではなるべくステアリングを切り込まず、パワーを掛けるときにはステアリングをなるべく戻して、という基本。これを心がければ荒れた路面でもESPの御節介は感じないはずだ。それと2速のギヤ比が高い。6500回転のゼブラゾーンまで使うと100km/hをオーバーしてしまうほどハイギヤード。低中速コーナーが連続するようなワインディングでは2速ホールドのままで走りきってしまい、せっかくのマニュアルミッションを操る楽しみが少ないのだ。

レカロに似ているがプジョー傘下のシートメーカーが作る本格的にバケットシート。クッションが効いていてヒップやショルダーのサポートがいいためコーナリングでGがかかっても楽。レカロのリクライニングはダイヤル調整式だが、このシートはレバー式のため扱いやすい

リヤシートは2人掛けだから乗車定員は4人。リヤもバケットタイプで座り心地がいいが、足下のスペースはそれほど広くない

以前、神奈川県の箱根で行われた試乗会でGTに乗ったときには、ペダル配置に違和感があってヒール・アンド・トゥがやりづらかった覚えがあるが、GTiはまったく問題がなく気持ちよくドライブできた。担当エンジニアに確認するとペダル配置はまったく同じだという。エンジニアはバケットシートのホールド性がいいため、上体が安定したからペダル操作もうまくいったのではというが、そうとは思えない。まあ、GTiはいいフィーリングなので問題はない。もう1点気になったのがミッションのシンクロが弱いところ。フル加速時に叩き込むようなシフトをしなくても1速から2速へのシフトアップでギヤ鳴りがする。ギヤは確実に入るがギヤが鳴るということは経年劣化が心配だ。

メカニズムやセッティングでちょっとネガティブなことを書いたが、コンパクトなスポーティモデルでマニュアルミッションが選べ、なおかつDOHCターボ。街なかでの走りは十分にスポーティだ。安全装備は6エアバッグ、前席プリテンショナーとフォースリミッター、後席もフォースリミッター付きと充実。さらにESPも標準だ。プジョーならではの美しいスタイリングも魅力的。ユーロ高のこの時期に320円という価格設定もかなり魅力的だ。

207GTi 右ハンドル 3ドア 排気量1598cc 5速MT 車両本体価格320万円

丸山 誠(まるやま まこと)

自動車専門誌での試乗インプレッションや新車解説のほかに燃料電池車など環境関連 の取材も行っている。愛車は現行型プリウスでキャンピングトレーラーをトーイングして いる。
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員
RJCカー・オブ・ザ・イヤー選考委員