FlashやPDFなど、多くのUI技術を有するアドビシステムズ。AIR(Adobe Integrated Runtime。開発コード名:Apollo)のリリースを年末に控え、現在、開発者からの注目度が最も高い企業だと言えるだろう。しかし、現時点では注目は技術面ばかりに集まっており、それらをどのようにビジネスへ生かすのかという点についてはあまり表に現れてきていない。そこで、本誌は、米AdobeSystems エンタープライズ&デベロッパー ビジネスユニット プロダクトマーケティング&戦略担当バイスプレジデントのジェフ・ワトコット氏に、PDFやFlash、そしてAIRの有効活用法について話を聞いた。

PDFを活用したソリューション

米AdobeSystems エンタープライズ&デベロッパー ビジネスユニット プロダクトマーケティング&戦略担当バイスプレジデント ジェフ・ワトコット氏

「現在の業務アプリケーション開発における"チャレンジ"は、組織の外に出るプロセスをいかに自動化するかという点にある」--ワトコット氏は、開発/運用の現場を振り返り、このようにコメントする。

ご存知のとおり、昨今のITシステムは、ビジネスを推進するための基盤という位置づけにあり、業務プロセスの自動化などを実現するために今やほとんどの企業で導入されている。しかし、多くの場合、自動化が行われているのは社内に閉じたプロセスのみで、不特定多数の企業が関係する取引や、一般の方々から受け付ける行政/金融機関の申請処理などは、依然として紙/人ベースで作業を進めているというのが現状だ。こうした状況をいかにして改善するか、アドビではその解決策を探っているという。

社外プロセスの自動化が競合優位性につながる

社外プロセスを自動化するメリットについて、ワトコット氏は米国の保険業界を例に取り、次のように説明する。

「例えば、米国マサチューセッツ州では、保険商品の価格が法律により規制されており、どの企業でも同種の商品は同一の価格で提供されている。そして、販売代理店は保険会社から独立しているケースが多く、1つの代理店で複数の企業の保険商品を販売することも少なくない。このような状況において、契約プロセスが自動化されている保険会社とそうでない保険会社企業があった場合、販売代理店は、自動化されている保険会社の商品を優先的に売りたくなるはずだ。なぜなら、人的コストの削減が可能なうえ、契約をすぐに終えられる。さらに、契約書類の不備をその場で自動的に発見する仕組みも組み込など、非常に多くのメリットが得られるためだ。」

課題はアクセス制御と操作性

こうした理想を現実にするうえで問題になるのがアクセス制御と操作性である。現在普及しているWebシステムであれば、社外の人間に対して社内システムにアクセスさせることも容易に行えるが、セキュリティを考慮するとあまり好ましいことではない。また、行政機関における申請処理のように不特定多数のユーザーが関わるプロセスの場合、ユーザーの中にはシステムを使いこなせない者も現れるはずだ。

以上のような問題を解決するうえで、アドビがキーテクノロジーの1つに挙げるのがPDFである。PDF閲覧用アプリケーションの開発に早期から取り組んできた同社では、PDFに対してデータを入力したり、その情報をサーバ側で解析したり、さらにはPDFに別のファイルを添付したりといった技術を開発している。電子署名/デジタル著作権保護といった課題も解決済みだ。

アドビのPDF技術

これらの技術を使用すれば、「入力フォームをPDFで提供して必要項目をデータとして入力してもらい、その内容をサーバ側で自動的に解析してデータベースに登録することができる。また、受付の際に本当に本人が入力したものであるかを電子署名で検証することも可能だ」(ワトコット氏)という。また、アドビでは、PDFに入力した情報をバーコードに変換して出力する(PDF上にバーコードを印字する)機能も用意している。これを使えば、必要項目を入力後に印刷して押印、それを手渡しで申請するといったフローを採用しても、受付側では紙面上に印刷されているバーコードをスキャンするだけで登録を済ませることができる。作業者の負担は軽微にとどめられるわけだ。

もっとも、以上のようなPDFソリューションでは、Webアプリケーションなどのオンラインシステムとは異なり、個人で自由に配布できるため、企業の目の届かないところで悪用されないかという点が懸念される。例えば、先の保険業界のような場合、販売代理店にはPDFを渡さなければならないが、競合他社に見られると困るということもあるだろう。このようなケースでも、アドビでは、PDFファイルのアクセス/閲覧権限を詳細にコントロールする技術を有するため、例えば、社内では印刷/保存/閲覧が行え、販売代理店では印刷/閲覧のみ、それ以外ではたとえPDFファイルを手にすることがあっても閲覧はできない、というように詳細に権限設定が行えるという。