見出し マイクロペイメント・ビジネスとの差別化

世界50カ国以上で水準の高いストックフォトサービスを展開しているコービス。日本でも2001年より事業を展開し、現在に至っている。しかし、最近では、インターネットの普及とともに低額で写真を数ドルで提供するマイクロペイメントのようなフォトサービスも増加している。

コービス社チーフ・クリエイティブ・オフィサー、ロス・サザーランド氏

「画像が持つコピーライトを管理し、それを適切に貸与または譲渡する手続を一括で行う当社のビジネス全体から考えると、ストックフォト・ビジネスが成長する余地はまだ十分にあると考えています。ストックフォトの市場では、ゲッティ・イメージと並んでコービスが世界の市場をほぼ支配している状況ですが、最近、従来のストックフォトサービスとは異なるマイクロペイメントのフォトサービスが急速に成長しています。これらのサービスは、インターネットを使い、比較的質の高い画像を1ドル程度の低価格で提供しています」と現在のストックフォト・ビジネスの新たな状況をサザーランド氏は説明する。

コービスの日本語ホームページ

なぜ、マイクロペイメントのフォトサービスが低価格で提供できるのかというと、インターネットで、世界中に広がったコミュニティから画像の提供を受けているからだ。高性能のデジタルカメラとインターネットの普及により、何百万もの人々が投稿した結果、わずか数年で膨大な数の画像を集めるに至った。少し前に米国タイム誌の表紙をマイクロペイメントのフォトサービスの写真が飾ったことは衝撃的で、この出来事はストックフォトサービスの世界が変わりつつあることを実感させるものだったとサザーランド氏はいう。 同氏によると、こうした新しい勢力に対抗するには2つやり方があるという。一つは、貴重な作品を発掘していくこと。たとえば、コービスが扱っているBettmannコレクションといった歴史的な写真など、同じものは二度と撮れない写真を見つけ出していくことが挙げられる。もう一つは独自性の強いもの。コービスが扱っている「PLAYBOY」誌やスミソニアン(Smithsonian)博物館の写真といったような、非常に入手が難しく、かつ独自性の強いものを集めていく方法がある。

もともとコービスは歴史的な写真、エディトリアル向けの写真のストックから始まった経緯があり、これらの分野での写真のストックは概ね確保できている。つまり、過去の写真を集めるのではなく、新たに撮影を敢行してストックフォトに追加していかなければならない。その際に重要なことは、市場のニーズを見極めて、それに合致したものを提供していくこと、そして腕のいいフォトグラファーと提携して質の高い写真を撮っていくことだという。 サザーランド氏は、将来、平均的な写真を集めた非常に巨大なフォトサービスが誕生する一方、数は少ないながら質が高く価値のある写真を集めたフォトサービスの2種類に分かれ、前者は一般のユーザが、後者は優秀な広告会社やデザイナー達が使うようになるのではないかと予想している。

また、コービスは写真以外にも、動画、アニメ、イラストといったコンテンツを提供し、さらにコンテンツの提供以外の分野にも積極的に乗り出している。たとえば、グリーティングカードの大手、ホールマーク社の音楽付きカードに使用された楽曲300曲の使用許諾交渉を行った。こうしたコンテンツには、作詞作曲者、演奏者、レーベルなどさまざまな権利の許諾が必要となるが、コービスでは包括的なサービスとして権利のクリアランスを行っている。このように同社のビジネスの領域は枝分かれしながら大きく広がり始めている。

アートムーブメントとの連携で新しいビジネスの可能性を探る

さらにコービスは全く新しいビジネス領域にも踏み出している。それは従来のような、アーティストとその作品を使用したいという企業との仲立ちをするだけでなく、その作品をどのようなカタチで使うことができるのか、その潜在的可能性を見ながら橋渡しをするビジネスだという。 そのきっかけとなったのがトリスタン・イートン氏との出会いだった。その出会いをサザーランド氏は次のように語った。「まず始めにコービスが、さまざまなキャラクター(カートゥンキャラクター)を産み出しているトリスタン・イートン氏のストリートアートに興味を持ち、携帯電話の待ち受けにイートン氏の作品を使いたいとお願いしました。話を進めるうちにイートン氏がアートトイ、アーバンデザイナーズトイと言われるミニフィギュアを「アートの限定量産」するなどのカルト的ムーブメントに関わっていて、米国と日本、イギリスを中心に世界中を巻き込んでいることを知りました。そこで彼にキュレータ役になってもらい、彼が集めた作品の中から選んだものをコービスに寄稿してもらい、コービスが代理人として売っていくことを提案しました」

トリスタン・イートン氏(Tristan Eaton)のサンダードッグ・コレクティブ

「これはトリスタン・イートン氏のプロジェクトであり、彼はこのムーブメントに関わる世界中のアーティストのほとんどすべてとコネクションを持っています。したがって世界中のアーティストを束ね、彼らのマネージメントを行うのはイートン氏であり、アーティストはイートン氏に全面的に作品をゆだねる形を取っています。それを最終的に展開するのがコービスという位置づけです。イートン氏とアーティストとの信頼関係は既に構築されていますが、そこにコービスが関わるというのは、介入のように見えるかもしれません。しかしそれは決して介入ではなく、コービスはアーティストの邪魔をするつもりは毛頭ありません。今後、アーティストが自分たちにとってのメリットとは何かを考え、アーティストとコービスとの信頼関係が構築できた時点で、少しずつアーティストの数を増やしていきたいと考えています」と、サザーランド氏はアーティストとの信頼関係の重要性を強調した。

イートン氏らが産み出すキャラクターはディズニーとはどう違うのかという問いに対しては、「ディズニーのキャラクターは、明るくて可愛くて子供立ちに人気がありますが、大人になると飽きてしまう。しかしイートン氏らのキャラクターは人間の良い面だけでなく、悪い面も兼ね備えており、大人にとっても魅力的と言えます」とサザーランド氏はいう。

アーバンデザイナーズトイを扱う日本のサイト

このムーブメントは世界中に広がっているが、アメリカでのムーブメントの多くは日本からヒントを得ていて、実際ここに参加しているアーティストには日本人もいるという。また、サザーランド氏は「イートン氏のサンダードッグスタジオとの提携を発表した後、多くのオファーをいただいています。反応は非常に良く、立ち上がったばかりの早い段階にもかかわらず、いくつか良い取引ができています。イートン氏については、既存のビジネスモデルとは異なる全く新しいビジネスも進行中なのですが、ビジネス規模がまだ未定です。ただ、写真と違ってさまざまなものに展開できる強みがあります。したがって潜在的な力は非常に大きいと考えています」と展望を語った。