このHDIが具体的に使われている例としてRausch氏が挙げたのは、AppleのiTV(現Apple TV)。あの小さな筐体の中にまるごとIntelベースのPCが入っているわけだが、これが可能になったのはHDIを使った高密度実装基板が利用できたからだ、とした。

さて、Intelがこの発表をIDFではなく直後に日本で行った理由を考えてみると面白い。確かにミニノート/サブノートのマーケットは日本が明らかに先行している。ただ、日本の全てのメーカーがこうしたミニノート/サブノートを提供している訳ではない。そこには厳然と、メーカー間の格差が存在する。

このうちトップメーカー、具体的に言えば松下とかソニーは、既に自社で十分な高密度実装基板の技術を持ち、それを製品に応用している。これに続くグループも、たとえば富士通は新しいUMPCのプロトタイプをIDFで展示するといった形で、やはり高密度実装を自家籠中に収めている事が見て取れる。ただ、更にその次のグループは? となると、これは甚だ怪しくなってくる。

大体富士通にしても携帯電話を手がけており、ここで高密度実装は(コストを別にすれば)十分経験済の筈。実際、小型PCを出しているベンダーの中で携帯電話と全く関係がないのは工人舎くらいのものだろう。結果、こうした第3グループ以降に含まれるベンダーにとって、サブノートとかSFFなどは、色々と負担が大きい。結局自社で開発を行わず、台湾あたりからOEM/ODM供給を受けて販売というパターンが殆どだ。ただこれはIntel全体としてはともかかく、日本法人である「インテル」としてはあまり嬉しくない。台湾からOEM供給を受けた場合、それはIntel台湾の売り上げなのであって、インテルの売り上げにはならないからだ。

今回の発表は、つまり日本のメーカーに対して「HDIを使うことで、高密度実装を比較的容易に使える様になります」というインテルからの提案の一環という話だ。今回具体的にどんな設計資料あるいはサポートがIntelから供給されるかまでは明らかにされなかったが、発表だけして何もしないということは考えられない。実際今回Rausch氏が来日したのは、メーカー各社を廻るためだったのだろうと想像される。

ちょっと別の見方をすると、今後IntelのMobility/Ultra Mobility部門は急速に高密度化の方向に向かおうとしているとも言える。Santa RosaやMontevinaに関しても、やがてはBlue Dolphin同様の省パッケージ品が提供されるだろうし、McCaslinやMenlowは、はなっから省パッケージしかない。これは一つには製品設計の自由度を上げると言うことがあるだろうが、対AMD/VIAのアドバンテージの一つとして「より小さいパッケージを提供します」という事も売りにしてゆくのだと想像される。

こうしたケースで問題になるのは、ベンダーがついてこれなくなること。かつてIntelがDirect RDRAMを導入したとき、あまりに基板設計が難しく、当時のTier 1ベンダーくらいしかマザーボードを出せなかったという事があった。今回Intelが省パッケージ化を進めるにあたり、同じ失敗を繰り返さない様に、今のうちから対応策を広く知らしめる事でベンダーが追従できるようにする、いわば「レベルの底上げ」を図っているのかもしれない。どちらにしても、これで日本のベンダーがサブノートやSFFの品揃えの厚みを増してくれるのであれば、それは歓迎すべき事である。モノがモノだけに即効性はない話だが、1~2年後の製品ラインナップを楽しみにしたいところだ。

ところで余談をもう一つ。Photo07によれば、普通のFR-4で14~18Gbps、Single Boardならば20Gbps以上のスピードが出る、という試算になっている。そこでRausch氏に「確か2001年、まだPCI Expressが3GIOとか言ってた頃にPat GelsingerがCopper Lineの上限が大体12Gbpsとか言っていた気がするのだが、その話はどこに行った?」(Photo09)と聞いたところ、「確かにあの当時は12Gbpsが上限だった。それは嘘ではないのだが、その後様々な技術によって上限ははるかに上がった」とのお答え。そういえばRich Warmke氏も似た様な話をしていたなぁ、とちょっと思い出した。

Photo09:IDF Spring 2001 Japanにおける、当時CTOだったPat Gelsinger氏のプレゼンテーションより。このプレゼンテーションはPCI Expressに関する話題のイントロだった。