完全な"偶然"だった奥華子との出会い


岡田 : 特報の音楽を録音するときに、わたしが仕事を頼んでいたレコーディング・エンジニアが奥華子ちゃんのプロデューサーだったんですよ。でも、それとは関係なく、技術者として予告編の音楽を録音していたのね。それが3月9日。映画の公開が7月だから主題歌を決めるにはその頃がデッドラインだったんだけど。細田監督はそれまで、大量にある主題歌候補の中でどれとして首を縦に振らなかったんです。どんなに有名な人のヒット間違いなしの曲であっても、この映画に相応しくないと思ったら嫌なわけですよ。ものすごく頑固だから(笑)。だから、みんな「この映画に歌はつかない」って諦めてたんですよ。そんな時に、そのエンジニアの彼が「僕が作ったCDだから聴いてください」って発売されたばかりの奥華子ちゃんの1stアルバムを監督を含めてスタジオにいた全員に配って回っていて。そのCDを監督が「これは何だろう?」って、たまたま持って帰って聴いたら……「ん? いいんじゃない?」と(笑)。

齋藤 : それで、その日の夜中の3時に「今日いただいた奥華子さんと言う方のCDなんですけど、監督が『僕はこの人に頼みたい!』と言っているんだけど、それは可能なの?」という話を僕から岡田さんにして。岡田さんは(笑)、そこが岡田さんの凄い所なんですが、そのプロデューサーさんに本当に速攻で連絡を取ってくださって、あらゆる条件を一気に確認して頂いて。本当に電撃的にそこで、はじめて奥華子さんにお願いしようと言う事になったんです。

岡田 : だから今から思うと、この小さくて良き作品に、デビューして1年ちょっとくらいのちょうど良きキャリアの歌い手の良き歌がついたことで、「最初から狙ってこういうものを作ろうと思っていたんじゃない?」っていう水準のものに結果としてはなったんだけど、そんなことはないんです。

齋藤 : 本当に色んなセクションで、色んな局面、選択肢があって。この作品に関わったすべての人たちが、細田守という演出家が考えることをどう具現化すればいいのかっていうことに最大限注力し、知恵と才能を結集することが出来た本当に幸せな作品なんです。

――細田監督に惚れ込まれ、主題歌と挿入歌を担当した奥華子さんより特別にコメントが届いた。作品にぴったりの雰囲気でストーリーを盛り上げた『変わらないもの』、そして観終わった後の感動を増幅させてくれた『ガーネット』、その誕生秘話を明かしてくれた。

「絵コンテを何度も読み返してイメージを膨らませた」 - 奥華子が描き出した『時かけ』


劇場版アニメーション『時をかける少女』の主題歌をお願いします、と言われたときはただもうビックリ。 「私でいいんですか?』というのが、正直な感想でした。

ご依頼を頂いて作るということについては、CMのお仕事の経験はありましたが、主題歌というのは初体験でした。初めての打ち合わせの時に、監督が私の楽曲を色々聴いて下さって、デビュー曲の『やさしい花』のような世界観が欲しいという事をおっしゃいました。そして具体的な要望というよりも、作品から私が感じた事を曲にして欲しいという事だったので、脚本と、見た事もないような分厚い絵コンテだけを頼りに映画の内容を理解しようと思いました。その時はもう、絵コンテの見方もわからないし、物語の内容が時間を戻したり、同じシーンが出てきたりと、分からなくなって、とにかく何度も何度も読み返していました(笑)。

そして、最初すぐイメージが沸いて作ったのが、挿入歌になっている『変わらないもの』でした。でも監督が「この曲にぴったりなシーンがあるから挿入歌として使いたい」とおっしゃられて、嬉しかった反面、もう一曲主題歌を作らなければ~と焦りましたね(笑)。それからが大変でしたが、なんとか、監督やスタッフの方にも「いい!」と言って頂けた曲『ガーネット』ができあがって、無事主題歌となりました。

完成した映画を観た時は、とにかく感動しました! それまでは頭の中でイメージしていたものが、実際に映像として動いていて、音楽が生きていて、これが映画なんだ~と思いました。専門的な事は分からないですが、景色とか空とか色がとても綺麗で、台詞の一つ一つが自然で、笑えて泣ける映画で。 時間というものは常に進んでいて、戻すことができない。「変わらないもの」なんてどこにも無いんですよね、生きている以上。でも「過去」だけは変わらない。もう起きてしまったことだから。その積み重ねがあるからこそ、今や明日を生きられるんだと思いました。きっと、観る人それぞれに、色々な事を感じさせてくれる、心に刻まれる映画だと思っています。

そんな素敵な作品に関わらせて頂けたこと、監督、スタッフのみなさんに心から感謝しています。

(奥華子)