熟成酒は単体で飲んでもおいしいが、料理とのマリアージュも楽しい。前述の長期熟成酒専門店「花」では、17時以降に8000円のコースを提供。先付け・前菜・刺身・主菜・そばといった構成で、熟成酒は食前酒タイプが1杯、食中酒用に3杯、さらに食後酒1杯といった内容になっている。

「熟成酒には様々なタイプがあるので、それぞれの特徴を考えて食前酒・食中酒・食後酒と割り振っています」とオーナーの伊藤淳氏。ここでは、伊藤氏に選んでもらった個性豊かな熟成酒5種を紹介する。

「初孫 純米」1983年醸造。東北銘醸(山形)の熟成酒。60%まで米を削り、低温でじっくり寝かせている。香りは紹興酒を思わせるが、はちみつのようなニュアンスも。伊藤氏が考えるベストペアリングは「つぶ貝の刺身とスズキの昆布締め」

「寝越庵 純米/樫樽仕込」1997年醸造。精米歩合70%で、樫樽(オーク樽)に入れて熟成させている。オイリーではちみつの香りが強い。口に含むと甘酸っぱさが広がり、若草の香りもある。苦味も感じられ、ボリュームのある味わい

「寝越庵 純米/全麹仕込」1998年醸造。南部美人(岩手)の熟成酒。全麹仕込みなので酸が強く、熟成が速い。濃厚な味で、熟成が進むほど甘みが深まる。粘度が高くとろりとした口当たりが特徴的。精米歩合は65%

「達磨正宗 純米」1985年醸造。白木恒助商店の熟成酒。紹興酒のような色合いで、突出して旨みが感じられる。長期熟成を念頭に置き、麹を通常の倍量使っているという

「寝越庵/高温山廃・一段仕込」1976年醸造。木戸泉酒造(千葉)の熟成酒。高温山廃で仕込み、コクのある味わい。精米歩合70%で30年熟成。一段仕込なので酸が多い。意外に思われるかもしれないが、なれ鮨がよく合う

以上5種の熟成酒を見ていくと、淡色から濃色へと順番に並んでいるが、熟成年数順というわけではない。このあたりも熟成酒の世界が奥深いと感じさせてくれるところである。長期熟成酒は、もちろんのことながら昨日今日仕込んだものがすぐに飲めるという酒ではない。長いものなら20年、30年といった年月を経て消費者の元へと届くのである。作り手も子供の代、孫の代に向けて、「少しでもおいしくなるように」と思いをこめて酒づくりに励む。熟成酒には時代や世代を超えたロマンが詰まっている。おいしさだけでなく、そんなところにも熟成酒の魅力があるのではないだろうか。

取材協力店 「花」
東京都港区新橋2-20-15新橋駅前ビル1号館1階
TEL 03-6276-8187
営業時間 11:00~23:00
定休日 土日祝(要確認)