【レポート】

デジタルコンテンツ都市を創る! その3 浜田市の挑戦 - 町作りを推進するエンジン

    近勝彦  [2007/01/09]

    本シリーズの第1回では地域の現状と課題を、第2回では島根県・浜田市の現状と文化資本「神楽(かぐら)」を紹介した。第3回目となる今回は、浜田市の実際の取り組みを見ていくことにしよう。

    4.デジタルコンテンツ化の狙いと地域文化資本の意義

    前回の「3.浜田市の現状と2つの資本」のように、まずはデジタルコンテンツ化して、神楽の文化財のアーカイブを作る。それは単に高精細なデジタル写真を残すだけではなく、その歴史的文化的な解説などメタデータも完備する。さらには、それぞれの歴史的区分や工房別作者別の作風などの検証を行い、それを分類・整理する。このような学術的な裏づけや分析を行いながら、神楽の文化体系を確立したいと考えるのである。

    これらによって、石見神楽の文化体系や構造を明確化・検証することを通じて、浜田市の文化アイデンティティがより強められると考えられる。日常的なもの、身近にあるものが、外からの評価によって実は素晴らしいものであることを再認識するのである。

    ただこれに留まるのみでは、都市再生や地域発展というのは心もとない。勿論、文化伝統をいたずらに商業的に利用したり、安易に商品化することがよいとはいえないこともあろう。そこで、まずはきちんと保存・維持するのである。その上で、地域の中に埋もれている文化財を利用・応用し、多面的な価値を生み出すのである。そうしなければ、結局はそのデジタルアーカイブの費用すら出てこないことになるからである。行政が保護・保存するにしても、昨今の財政逼迫の状況からすれば、おのずと限りがあろう。

    では、何をどうすればいいのであろうか。それを今回の一連のレポート全体で明らかにするのであるが、デジタルコンテンツ化は実に様々な効用を地域の各方面に及ぼすことができるのである。それを示しているのが、図表1である。

    まず、地域発展のためには、そこにある企業や産業が活性化しなければならないであろう。そこで、神楽のデジタルコンテンツを、様々な商業利用に供することが考えられる。たとえば、お土産用の包装紙として利用することが考えられよう。または、神楽をモチーフにしたお土産の製作も考えられる。食べ物の名物としても、神楽をイメージしたものも創作できるかもしれない。独自の商品は、それ自体がイノベーションであるから、出来あいのものよりも存外に人々に受けるかもしれない。

    さらには、観光のための神楽文化の応用も考えられる。たとえば、神楽記念館を作ることも考えられる。そのときに、これまでのように新しく立派であるが生命感がない行政の博物館を建てるよりも、商店街の空き店舗やこれまである施設の一角を利用しながら、町中に神楽の文化を目にすることができる施設のほうがよいであろう。これは、費用が安いこともさることながら、町中を多くの観光客に回遊してもらえるからである。多くの人が、神楽の舞と神楽文化財を観に集まるようになれば、閉じた商店街のシャッターも徐々に開いてくるだろう。そこに、神楽の文化財が展示してあるとともに、新作のお土産や、ちょっとした食べ物屋があれば、人々はそこで憩うことができるだろう。

    また、商業利用ではなく、出来た神楽のデジタルコンテンツを教育用に利用することもできる。まさに、石見神楽の拠点は浜田市なのであるから、地域の文化や歴史を学ぶよい教材といえよう。しかも、自分たちで作るのであるから、利用方法や加工も自由にできるし、市販のものを購入するより著作権上の制約も少ないであろう。

    デジタル文化財を多方面に活用することによる社会経済効果

    前回も述べたように、浜田市はまだ十分に全国的に知られていない。観光に関しても、浜田市には、素晴らしい自然とおいしい食材と、これまた優れた泉質をもった温泉が多数存在している。どちらにしても、浜田市を全国の人々にもっと知ってもらい、優れた自然や文化に触れていただくには、全国にそのよさを強くアピールすることが必要である。そのためには、インターネットを使った発信がもっとも費用対効果が大きいであろう。神楽のデジタルコンテンツを充実させて、継続的に発信し続けることである。そこから、町の認知が始まり、それがブームの基礎を作ることになろう。

    5.将来発展に向けて

    神楽を中心とした町作りを進めるためには、当たり前であるが、多くの市民の協力と理解が必要であろう。そのためには、それを強力に推進していく核(コア)も必要である。エンジン(駆動力)がなくては、飛行機は飛ばず、自動車は走らない。

    そこで、次の画像のような人々が活躍する必要がある。彼らは「NPO法人・A-Gener」(この地方でいい調子を「ええげな」ということから名前がつけられた)の面々である。浜田市は筆者も何年か住んでいたこともあるが、実に、市民の連帯感が強い。いまだ、よき市民連帯がそこにある。これは、まさに「社会資本」(Social Capital)といえよう。この市民の協力を作り上げながら、市民が中心となって神楽文化を様々な形で価値化していただきたいと思うのである。

    NPO法人・A-GENERの人々とその代表者である川神裕司氏(画像右端)。氏は市議会議員でもあるが、あらゆる社会問題に精力的に取り組んでいる

    しかし、「デジタルコンテンツによる都市づくり」の課題がきわめて多いことも指摘しておかなければならない。たとえば、新しく作られたデジタルコンテンツの著作権は誰が保有し、誰が管理するのか。不正にコピーされないためには、誰がどのようなDRM(Digital Rights Management: デジタル権利管理)を施すべきなのか。とくに、地域の人々が皆で作り上げたデジタルコンテンツの管理はどうあるべきなのか。さらには、そのデジタルコンテンツをいかにして、多面的な価値に変えていくことができるのか。市民の合意と協力を得ながら、文化資本を持続可能な形で発展させるためのスキームを確立していかなければならないであろう。

    今後は、そのような権利のあり方やコンテンツ都市の創り方などを具体的な事例を通じてさらに議論を深めたいと考える。


    なお、今回のレポートの内容や考えは、浜田市の人々との長い対話によって作られたものであるが、その文責はもっぱら筆者自身にあることをお断りしたい。また、宇津市長、川神氏および竹内氏、そして浜田市役所の方々には謝意を表したい。

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