【レポート】
2007年1月5日付けの日本経済新聞の「イノベーション 日本の底力」と題するコラムの第一回として「スーパーコン 米国と互角」という見出しの文章が掲載された。筆者の独断で要約すると、1) 日本は毎秒10ペタ回の演算性能をもつ世界最速のスーパーコンを開発中である。2) 日本の強みは地球シミュレータでノウハウを積み重ねた「ベクトル型」のプロセサ技術。3) ベクトル型は科学技術計算に専用化した構造で、気象予測など大量データを処理する計算はベクトルが得意。4) 国際的な性能評価の指標で比べると28項目中17項目でベクトル型が勝る。5) 米国はスカラ型に注力しておりベクトル型は弱い。6) CPUとメモリ間も光伝送が必須だが、ここでも日本は一日の長がある。従って、スーパーコンは米国と互角以上の戦いを繰り広げると結論付けている。また、米国も開発を行っており、米国国防総省は昨年11月、スーパーコン開発でIBMやクレイと契約し、速度の目標は低いが技術基盤のすそ野を広げる狙いがあるとみられる、と書いている。
この文章を読むと、スパコン(日経はスーパーコンと書いているが、筆者はスパコンを使い慣れているので、以後、スパコンを使用する)の開発に関して日本は米国より優れた技術があり互角以上に戦いを進めているという印象であるが、本当にそうであろうか?
日経には日米のスーパーコン開発計画という表が掲載されているが、米国はエネルギー省のASC計画の18億ドル、国防総省のHPCS計画の5億ドル以上を始めとして、次世代スパコンの開発のために、2010年までに25億ドルあまり(約3000億円)をつぎ込む計画である。これに対して日本の次世代スパコンは1154億円の予算であり、3分の1の予算規模でしかない。
また、米国の開発の速度の目標は低いと書いているが、この表のASC計画の演算性能は1~10ペタとなっているし、最近では、国防総省のHPCS計画のターゲットは実アプリケーションでの実効性能で数ペタと言っており、ピーク性能では10ペタ級になる可能性が高いと思われる。いずれにしても、米国も威信を掛けて開発しており、「目標は低いが技術基盤のすそ野を広げる狙い」などという開発計画が承認されるとは考え難い。
次の図はTop500のシステムをプロセサのアーキテクチャ別に分類して、そのシェアの年次推移をプロットしたもので、左がシステム数、右がGFlops性能シェアである。
この図に見られるように、左端の1993年にはシステム数、性能ともに半分以上がベクトル型であったが、2000年にかけて急速にシェアが減少している。なお、2002年の性能シェアの急増は、日本の地球シミュレータがダントツのトップで加わったことが主因である。しかし、その後もシステム数、性能ともにシェアは減少を続け、直近の2006年11月発表では、Top500にランクインされたベクトルシステムは7システムでシェアは1.4%、性能合計は約85TFlopsでシェアは2.4%である。
この傾向からみると、ベクトル型は明らかに消え行く過去のアーキテクチャで、そこに技術の蓄積があるから強みと言えるのであろうか? 技術蓄積があるからと言って、このように急速にシュリンクするアーキテクチャに追加投資することが日本のスパコン開発に有益であるのかどうかは、はなはだ疑問である。
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