【レポート】

進化するHalf-Life 2エンジン(前編)

1 大ヒットゲームのエンジンに世界が注目

    西川善司  [2007/01/01]

    PCゲーム市場における大ヒット作となった「Half-Life 2」。記念パッケージには"35を超えるゲーム・オブ・ザ・イヤーを受賞"の文字が躍る

    1996年に米ワシントン州に設立されたValveは、総出荷本数800万本という、PCゲームとしては異例の大ヒットを記録した近未来SFシューティング「Half-Life」(1998年)を製作したゲームスタジオとして有名だ。その続編となる「Half-Life 2」も、2004年暮れに発売されるやいなや、世界中の2005年度のPCゲーム・オブ・ザ・イヤーを総なめにし、現在までに400万本のセールスを記録する大ヒット作となった。現在では家庭用ゲーム機にも移植されており、「1」がPS2で、そして「2」は初代Xboxでリリースされている。

    さて、このHalf-Life 2が、ゲームファンのみならず、ゲーム業界全体から注目を集めることが多いのにはワケがある。それは、このゲームがValveが開発したSourceエンジン(俗称Half-Life 2エンジン)上で動作するコンテンツであるためだ。Sourceエンジンは、ゲーム開発の際に用いるミドルウェアとしての完成度が高く、PCゲームの開発者やゲームスタジオにとってはベンチマーク的存在となっているのだ。AI、グラフィックス、物理シミュレーション、サウンドシステム、アニメーション、ネットワークといったゲーム開発に必要な全要素が高品位にまとまっており、採用タイトルはじわじわと増え続けている。最近作の有名どころでは「Dark Messiah of Might and Magic」(Ubisoft, 2006)、「Left 4 Dead」(Electronic Arts, 2007)などがある。

    ここ数年では、このエンジンにおける、特に最新グラフィックス技術の積極的な実装が注目されており、話題を呼んでいる。本稿では、この進化する「Half-Life 2エンジン」のグラフィックス技術の最新状況についてレポートしたい。

    Half-Life 2のグラフィックス強化に乗り出したValve

    Half-Life 2の開発途中版が初公開されたのは2003年の5月、E3でのこと。Sourceエンジンのグラフィックスはこの時の最先端PCグラフィックス技術である、DirectX 9世代プログラマブルシェーダ2.0(SM2.0)対応のGPU(グラフィックスプロセッサ/ビデオカード)をターゲットに実装されたわけだが、「ゲーム向けのリアルタイムグラフィックス」というお題目があった関係で、実際にはパフォーマンスを優先して、SM2.0のフルスペックからやや妥協した実装になっていた。

    しかも、Half-Life 2のソースリスト流出問題が仇となって発売は初公開の翌年2004年暮れになり、この時には既にSM3.0対応GPUのNVIDIA GeForce 6800シリーズが登場していた。進化の早いグラフィックス技術の中にあって、Half-Life 2のグラフィックスは超最先端……というレベルには達していなかった。

    これを反省したためかどうかは分からないが、Valveは強力な助っ人を2005年に自社に迎え入れ、Sourceエンジンのグラフィックス強化に乗り出している。

    その助っ人とは、ATI(現AMD) 3D Application Research GroupのJason Mitchell氏だ。ATIの新GPU用のテクニカルデモのシェーダーの数々を手がけ、Xbox 360のグラフィックスAPIの設計にも携わり、著名な3Dグラフィックスの書籍には必ずその名前が見られるほど、この業界での彼の業績は大きい。毎年開催される世界最大のコンピュータグラフィックス・カンファレンスSIGGRAPHの「HARDWARE GPU SHADING」コースの壇上ではお馴染みの顔ともなっていた彼が、Valveに移籍したのだ。

    ATIからValveに電撃移籍したJason Mitchell氏。サンフランシスコで開催されたGame Developers Conference 2005は、ATIロゴ入りの服装で講演した最後の場となった

    彼が移籍したから……と考えるのは短絡的にしても、その後、「Half-Life 2」では疑似的なアプローチだったHDRレンダリング(High-Dynamic Range Rendering)をリアル実装し、またライティング関連のシェーダーもリファインされ、Sourceエンジンのグラフィックスエンジンはかなり強化されてきている。

    その成果は、2005年10月にHalf-Life 2ユーザーに無料提供された「Half-Life 2: Lost Coast」や、2006年6月に発売された正統なる「Half-Life 2」の続編である「Half-Life 2: Episode One」に見ることができる。

    具体的に「Half-Life 2」から何がどう進化しているのかを見ていくことにしよう。

    以前、Mitchell氏に話を伺ったとき、ATIのテクニカルデモの敵役オプティコの爪や指がJason Mitchell氏自身のものを素材にして製作されたというトリビアを教えてくれた

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