【レポート】
「バリー・ユアグロー×柴田元幸 トーク+朗読+サイン会」が10日、東京・新宿の紀伊国屋ホールにて開催された。紀伊国屋書店はさまざまな分野に関するセミナーを定期的に行っており、今回はその第51回企画となる。
ゲストは米国在住の短篇小説家、バリー・ユアグロー氏。テレビやラジオなどを通して自作の朗読ならぬ「パフォーマンス」を行う、自称「作家―パフォーマー」あるいは「コメディアンにして詩人、かつ偽の夢見人」なのだ。著書のほとんどが翻訳されており、日本では特に新潮文庫が運営する携帯サイト「新潮ケータイ文庫」で連載された作品をまとめた『ケータイ・ストーリーズ』が有名だ。一方、ホストの柴田元幸氏は英米文学研究が専門の東京大学教授。翻訳者としての側面も著名で、同書を含めたユアグロー氏の翻訳を多く手掛けている。そんな2人による朗読会の様子をレポートしよう。
紀伊国屋書店の市橋氏から紹介を受け、バリー氏と柴田氏が登場。客席中程の通路に据え付けられたトーク席が参加者との距離を縮め、より一体感を感じさせる。
ユアグロー氏は2002年秋に来日した際、携帯電話の画面を凝視しながら目にも留まらぬ速度で親指を動かしメールを送る若者の姿を見て、心底驚いたのだという。そんな光景が作家の創作心を刺激したことで完成したのが、『ケータイ・ストーリーズ』。そんな氏の言葉を翻訳しつつ、柴田氏が補足を加えながら作品の解説を加えていく。ちなみに連載当時は両氏とも携帯を持っていなかったが、今はバリー氏だけは持っているとのこと。この『ケータイ・ストーリーズ』から朗読作品として選ばれたのは、「メロディ(Tunes)」と「悲しい息子(Sad Son)」。
「サラリーマンという言葉は海外にもあるんですが、日本でしか使われていません。なので、日本のサラリーマンの光景を思い浮かべながら書きました」(ユアグロー氏)という「メロディ」は、うっかり携帯電話を飲み込んでしまった若いサラリーマンがユーモアたっぷりに描かれている。
朗読はバリー氏(英語)、柴田氏(日本語)の順で行われた。
「僕も表情豊かに朗読できる方だと思うんですが、彼はさらに表情豊かに朗読するから絶対負けるんです。だから今日は翻訳者として黒子に徹します(笑)」(柴田氏)
開口一番、柴田氏がこう語ったように、バリー氏の朗読は動きが大きく表情豊かなものだった。声色で人物を語り分ける一般的な朗読のイメージを覆す、百面相のような表情、身振り手振り、上半身全体を使って物語を表現する様子はまさにパフォーマー。サラリーマンの腹の中で鳴る着信音を本物の携帯電話で表現するなど、小道具まで登場する準備のよさ。続く柴田氏の朗読は、しっとりと穏やかながらも情感がたっぷりと込められ、喜劇の中の哀愁が強く感じられる語り口。同じ作品にも関わらず、朗読者でこうも変化するかという見本のようだった。
続く2本目の作品「悲しい息子」が誕生するきっかけとはなんだったのだろう。
「素晴らしいテクノロジーがあっても、人生は時に残酷なものです。でもそれを笑い飛ばせるなんて良いじゃないですか? 僕はこの作品で日本の読者の心に通じるものを描きたいと思い、日本の文化に関する参考書をたくさん読みました。その中で見つけたのが、若い"ひきこもり"の男の子の話。とても悲劇的なものだったので、それをテーマとすることにしました」(ユアグロー氏)
執筆時には自分自身のブラックな部分をより強調させて書くというバリー氏だが、ただいたずらに悪意や皮肉ばかりを表現したいと考えている訳ではない。
「なぜなら"人生の悲しみは芸術の喜び"でもありますから」
テーマの裏側には、彼なりの複雑な人生哲学も込められているのである。
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