【レポート】

夏休み映画2006・番外編 - ジブリ原点『王と鳥』劇場初公開、作品巡り高畑監督と爆笑問題太田氏トーク

    野口智弘  [2006/08/01]

    7月29日より、東京・渋谷のシネマ・アンジェリカにてアニメ映画『王と鳥』が公開されている。フランスを代表するアニメ作家、ポール・グリモーが監督したこの作品は、日本ではDVDの発売はされているが、劇場での公開は今回が初。

    あらすじ

    舞台はタキカルディ王国の高層宮殿。最上階の秘密の部屋には3枚の絵が飾られていた。美しい羊飼い娘と煙突掃除の青年、そして孤独な王の肖像画。恋する娘と青年は、仲を引き裂こうとする肖像画の王から逃げ出し、一羽の鳥を道先案内人として宮殿の階段を駆け下りてゆく……。

    メインビジュアルから。スケール感あふれる高層宮殿の描写や、なめらかなアニメーションなど、いまなお新鮮な輝きを放つ

    アンデルセンの童話を原作とし、フランス初の長編アニメとして制作されたこの作品は、1952年に『やぶにらみの暴君』として公開されたが、グリモー監督の意向に沿わないものだったため、同監督は作品の権利を取り戻しフィルムを回収。執念の修正作業の結果、1979年に完成させた。62分の『やぶにらみの暴君』は約20分カットされ、87分の『王と鳥』として約半分が作り直されている。

    前身となる映画『やぶにらみの暴君』は1955年に日本でも公開され、アニメ作家の高畑勲、宮崎駿の両氏に大きな影響を与えた。なかでも高畑氏は大学時代に見た『やぶにらみの暴君』について「もしこれを見なかったら、漫画映画の道に進むなどということは思いもしなかっただろう」(『王と鳥』プレスリリース)と記しており、公開にあたっては日本語字幕翻訳を担当するなど深く関わっている。公開初日には高畑氏とお笑いコンビ「爆笑問題」の太田光氏のトークショーが開催され、高畑氏と太田氏の異色の組み合わせが実現した経緯についてを皮切りに、『王と鳥』の魅力が語られた。

    無邪気な暴君の圧制とそれに対する反抗、そして大破壊という、政治的メッセージをふくんだ『王と鳥』。博識で知られるふたりのトークがジャンルを横断する形で実現

    司会「高畑監督が太田さんに『王と鳥』を見てもらいたいと思われたそうですが?」

    高畑勲氏(以下高畑)「まあ、勘ですね(笑)。お笑いの番組もそうなんだけど、向田邦子について語られてたり(=2005年放送の番組『知るを楽しむ・私のこだわり人物伝』)、あの前に迫るポーズはすごい大切な気がするわけ。そういう若い人が最近いないので『信頼できるんじゃないか』と。感想を読んでびっくりしました。『こんなふうに見てもらえるなら、自分がお願いしたのが当たってたな』って。そんなわけでここでもぜひ映画から感じたことをお話ししてもらいたいと思って」

    太田光氏(以下太田)「すごい緊張するんですけど(笑)。最初にびっくりしたのは、とくに宮崎監督がこの映画から影響を受けたことがわかっちゃうことで『ルパン三星 カリオストロの城』とか『未来少年コナン』とか直接的な影響がありますよね? 僕だったら隠しておきたい。ただこれをみんなに見せたいというのは高畑監督なので『高畑監督の宮崎潰しなのかな』って」(会場笑)

    高畑「いやあ、それはないですよ(笑)。まあ、表面的なところでは半分パクリみたいな感じもあるけど」

    太田「俺は『パクリだ』って言ってないですよ!」(会場笑)

    高畑「彼はその辺にあったものは平気で持ってっちゃいますから。でも彼の空間感覚はべつにグリモーの真似とかじゃなくて、本来持ってるものだと思いますね」

    太田「でも今日は『ゲド戦記』の公開日ですよね? それに合わせてここでイベントをするってことは……」(会場笑)

    高畑「(笑)。でも映画っていうのは活気があったほうがいいからね。『ゲド戦記』も、これも見てもらいたいし」

    「王様が怖いんですけど、はっきりと『こういう奴だから怖い』って言えないんですよね。むしろ親しみやすいキャラなのでそこが怖い」(太田氏)

    太田「影響を受けた作品を人に見せちゃうというのが逆に信頼できる感じはしました。僕は方々で『宮崎アニメは嫌いだ』って言ってきたんです。高畑監督のは好きなんですよ?(会場笑) ちょっと宮崎アニメは怖いんですね。未熟な人間が生きていることを否定される気がする瞬間があって。圧倒的に支持があるってことは、もちろんすばらしいことを言ってるんだけど」

    高畑「宮崎アニメに限らず、ファンタジーはあまりにきれいにまとまってしまうと自己完結しちゃう。『自己完結させないことが大事なんじゃないか』と僕は思ってきたんです。この作品もファンタジーには違いないけど、完結してないですよね? 最後に全部壊れちゃって、続かざるを得ないんですね」

    太田「あとすべてが崩壊しちゃうことが気持ちいいっていうのもあって、システム化されたあの城が崩れたときにほっとするというか。でも同時に『それが気持ちよくていいのかな?』とも思っちゃう。その発想はテロですよね?」

    「王様みたいな生活を我々は享受してて、王様が現代人に見えるようになっている。どんな音楽でも聞けるなんて王侯貴族以上ですよ」(高畑氏)

    高畑「じつは気持ちがよかったんです。それは戦争で日本が負けたときですよ。僕も空襲で死にかけたけど、あのときって爽快感がはっきりあったんですよ。この映画と同じで全部壊れたところから出発してるんです。それはそれで人間ってまた立ち上がれるんですね」

    太田「でも『気持ちいいからってそれをやっていいのか?』という不安もありますよね」

    高畑「そうですよ。アメリカはイラクを日本風に(復興)するって入って誤算だったらしいけど、条件が違ってるから成功するはずがないんですね」

    短い時間ながらも濃い内容のトークショーは、高畑氏がポール・グリモーの言葉を朗読して締めくくられた。『王と鳥』は9月22日までシネマ・アンジェリカにて公開される。また現在、東京日仏学院ギャラリーにおいて展覧会「ポール・グリモー展」が開催中。グリモーの仕事を日本で初めて紹介する展覧会として高畑氏が監修し、絵コンテや制作風景などを展示。同ギャラリーは8月13日まで夏期休館となっており、ポール・グリモー展の会期は8月14日~31日。入場無料。

    (C)1980 LES FILMS PAUL GRIMAULT・STUDIOCANAL IMAGE・FRANCE2 CINEMA

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