【レポート】

夏休み映画2006 - 台風の目となるか、スタジオジブリの最新アニメ映画『ゲド戦記』ついに公開

野口智弘  [2006/07/29]

アニメ映画『ゲド戦記』が公開された。アメリカの作家、アーシュラ・K・ル=グウィンが、30年以上に渡って記したファンタジーの大著をアニメ化した『ゲド戦記』はスタジオジブリの最新作として、2006年の夏休み映画のなかでもとくに大きな注目を集めている。話題性が大きいあまり、ややもすれば作品自体の魅力が見えにくくなってしまっている面もある『ゲド戦記』の基本と鑑賞ポイントを、大づかみではあるがまとめておきたい。

あらすじ

竜が存在し、古代の魔法が残る多島海世界「アースシー」。世界の繁栄は長く続いていたがその影では異常事態が頻発しており、エンラッド国では対策会議が開かれる。その国の王子・アレン(声・岡田准一)は自らの影に追われていた。アレンはある過ちを犯し、王家の剣を手にして国を出奔。自暴自棄のまま旅の途中で倒れようとしていたところをハイタカ(声・菅原文太)と名乗る初老の旅人に救われる。ハイタカは「大賢人」と称えられる魔法使いで、世界の均衡を守るべく旅を続けていた。ハイタカはアレンを道行きの連れに選び、ふたりは猥雑な港町ホート・タウンにたどり着く。そこでアレンは少女テルー(声・手嶌葵)に出会う。テルーは人買いに追われていた……。

  • 全国東宝系にて公開中

己の影に追われ、生きる意味すらも見失う王子アレン。奴隷として売られてゆくシーンなどは宮崎駿氏の絵物語『シュナの旅』からイメージが取られている

『指輪物語』(=『ロード・オブ・ザ・リング』)、『ナルニア国物語』と並ぶ世界三大ファンタジーのひとつ『ゲド戦記』は、1968年から(邦訳は1976年から)現在までに6巻が発表されている。今回のアニメ映画化に際しては、大賢人ハイタカがアレンとともに大海を越えて死者の国へと赴く第3部の『さいはての島へ』から多く題材を採っているが、実際には若きハイタカが冒険の果てに自らの影と向き合う第1部(『影との戦い』)、旅を終えたハイタカが旧知のテナーやその養女テルーと3人で暮らす第4部(『帰還』)、そしてチベットの民話を元にした宮崎駿の絵物語『シュナの旅』などがシャッフルされた、独自の『ゲド戦記』としてまとめられている。

監督は宮崎吾朗氏。各所ですでに喧伝されているように、アニメ監督の宮崎駿氏を父に持つ吾朗氏は、三鷹の森ジブリ美術館の総合デザインを手がけたのちに初代館長に就任した人物で、本作がアニメーション監督デビュー作となる。宮崎駿氏の絵コンテや絵物語を参考にしたとするだけあって随所にジブリらしさを残しているものの、ドキュメンタリータッチで長めにカットを重ねるといった、独自の作劇方法も取られている。監督と絵コンテを共同で手がけた山下明彦氏は『ハウルの動く城』で作画監督を務めた人物で、今回は「作画演出」というポジションで監督を補佐した。『ハウルの動く城』からは作画監督の稲村武志氏も続投。予告編でも見られるアレンの鬼気迫る表情など、作画面においてスタジオジブリの枠を広げる試みを行っている。美術監督の武重洋二氏は『もののけ姫』から『ハウルの動く城』まで同様の役職を務めており、本作ではクロード・ロランやブリューゲルなどの、写実主義とは異なる画風を作中の背景などに取り入れた。こうした画面作りや演出手法をジブリらしくないと見る向きももちろんあるだろうが、スタジオジブリの新しいスタイルを見出すための挑戦として注目しておきたい。

賑わいの影で麻薬やまがい物、人身売買がはびこる港町ホート・タウン。劇中にはこれまでのジブリ作品にはほとんど見られない退廃的な描写も多く盛り込まれている

音楽は『半落ち』のような映画音楽から、劇団四季の編曲まで幅広く手がける寺嶋民哉氏が担当。作中ではバグパイプを使った曲が印象的に差し挟まれている。またそれ以上に印象的な楽曲として、2006年の夏を代表するメロディーとも言える手嶌葵の『テルーの唄』については作詞を宮崎吾朗監督、作曲を『まっくら森の歌』などで知られるシンガーソングライターの谷山浩子氏が手がけた。

声の出演陣も実写俳優を中心に非常に豪華な構成で、アレン役の岡田准一は思春期のナイーブな感情をすくい取っており、テルー役の手嶌葵は初々しい魅力を作品に吹き込んでいる。そのほかジブリアニメの出演経験があるハイタカ役の菅原文太(『千と千尋の神隠し』釜爺役)と、クモ役の田中裕子(『もののけ姫』エボシ御前役)はそれぞれ聞き応えのある演技を残している。

テーマ的にはスタジオジブリ作品であまり扱わなかった「男の子の問題」を正面から描いているのが興味深い。いじけるアレンの姿は『機動戦士ガンダム』のアムロ・レイや『新世紀エヴァンゲリオン』の碇シンジ、また一時期の日本映画で吉岡秀隆が演じていた青年像を彷彿とさせる。壮大なスケールで世界を救う冒険譚かと思いきや、内向的な少年がなすべきことを見出すまでの話となっているのは好みが分かれるところだろう。

『ゲド戦記』における竜は、ほかのファンタジー作品以上に神聖かつ不可侵なものとして描かれている。ポスターにも使われた印象的な一枚

ただ独自の世界観設定については劇中でとくに説明されることがないので、その点では不親切感が残る。その最大のものが『ゲド戦記』の世界「アースシー」には人から物に至るまですべて古代から伝わる「真の名」があり、魔法は真の名を唱えることで発現するというもの。そもそも『ゲド戦記』の「ゲド」とは大賢人ハイタカの真の名であり、それを知るものはごくわずかな人物に限られる。よって「ゲド」という言葉は劇中にほとんど登場せず、また主人公アレンの名も通り名でしかない。アレンの真の名は物語のキーポイントとしてクローズアップされてゆく。そのほかにもハイタカとテナーの過去、ハイタカと宿敵クモとの因縁、テルーに隠された秘密などは、原作を読んでいるかどうかで大きく理解が変わってくるので、できれば原作を第4部まで読んでおくことをおすすめしたい。シンプルであると同時にハードルの高さも持ち合わせた作品となっている。

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