【レポート】

夏休み映画2006 - マンガ原作映画のひとつの到達点か、『ハチミツとクローバー』

    野口智弘  [2006/07/28]

    映画『ハチミツとクローバー』が22日より全国公開されている。美大生5人の片思いと友情をつづったこの作品は同名マンガを実写化したもの。マンガを実写化した映画は近年日本映画の主流になるほど数多く作られているが、中でも『ハチミツとクローバー』は原作の良さを損なわずに仕上げた良作となっている。

    あらすじ

    純朴な美大生・竹本祐太(櫻井翔)は、美術教師の家で転入生の花本はぐみ(蒼井優)と出会い、ひと目惚れしてしまう。幼さが残るが絵を描くことにかけては非凡な才能を持つはぐみ。成り行きから竹本は彼女の面倒を見るようになる。そのころ奇人として名を馳せる8年生の森田忍(伊勢谷友介)が帰国。早速美大に復帰した森田ははぐみの絵を見て絶賛し、同じ天才として好意を抱くようになる。竹本や森田と同じ美大の寮に住み、建築事務所でバイトをする真山巧(加瀬亮)は、あるデザイナーの女性に対してややストーカー気味に想いを寄せる日々。その真山に恋する山田あゆみ(関めぐみ)は、真山が振り向いてくれないことを知りつつも一途に片思いを続けてしまう。仲のよい5人は友情と恋を同時に抱えたまま日々を過ごしてゆく……。

    • 渋谷シネマライズ、新宿ジョイシネマ3、池袋シネマサンシャインほか全国ロードショー

    天才少女の「はぐ」こと、花本はぐみは蒼井優が演じており、映画本編では写真以上に「はぐ」っぽい。また絵画制作はアーティストのMAYA MAXXが行っている。

    月刊『コーラス』で連載されている羽海野チカ(うみのちか)のマンガ『ハチミツとクローバー』は、今年7月時点で単行本売り上げが累計で620万部に及んだ大ヒット作品。個性豊かな美大生5人の恋愛模様が中心に据えられているが、モラトリアムの悩みや、仲間同士の軽妙なやり取りといった要素もあり、少女マンガであると同時に一種の青春マンガとして男性にも幅広く受け入れられている。愛称は「ハチクロ」。

    原作を忠実に再現したアニメ版も、6月末からは第2シリーズとなる『ハチミツとクローバーII』が放送中。昨年放送された第1シリーズは、深夜帯ながら平均視聴率3.0%を記録。DVDのセールスも各巻3万本と好調な売れ行きを見せている。アニメ、実写映画ともに製作にはアスミック・エース エンタテインメントが携わっており、足並みの揃ったメディア展開が行われているのが興味深い。実際に実写映画の企画はアニメの放送前からスタートしていたとのことで、入念な準備のもとで今日のハチクロブームが形成されていったことがうかがえる。近年のメディアミックス作品のなかでもマンガ自体の人気と、各メディアでの取り組みがうまく合致した好例と言えるだろう。

    『ハチミツとクローバー』の実写化に際しては、若手人気俳優が顔を揃えたことでも大きな注目が集まる。竹本祐太役はアイドルグループ「嵐」のメンバーでドラマ『木更津キャッツアイ』などでもおなじみの櫻井翔。花本はぐみ役は『花とアリス』で大きな注目を集め、2005年だけで6本の映画に出演している蒼井優が演じている。森田忍役は『CASSHERN』『嫌われ松子の一生』などへの出演のほか、モデルや映画監督としても活躍する伊勢谷友介。真山巧役はクリント・イーストウッド監督の『硫黄島からの手紙』、周防正行監督の『それでもボクはやってない』といった注目作への出演が控える加瀬亮。山田あゆみ役は『8月のクリスマス』『笑う大天使』への出演のほかにCMなどでも活躍する関めぐみで、奇しくも『笑う大天使』には森田役の伊勢谷友介も出演している。

    メガネ男子の代名詞、真山(左)は映画では若干ストーカー度がアップ? 美貌のヒロイン山田(右)もご覧の再現度だが、必殺のかかと落としは残念ながら映画では見られず

    監督・脚本(共同)はCMディレクターとしてライフカードやサントリー「なっちゃん」などを手がけ、長編映画の監督は今回が初となる高田雅博。音楽は『カウボーイビバップ』『下妻物語』などサウンドトラック界の第一人者である菅野よう子。ほかにも主題歌はスピッツ、エンディングテーマの作詞作曲はスガシカオが担当した。両者の楽曲は原作そのものに影響を与えているほか、アニメ化の際にも劇中で使われているなどファンにはおなじみのものとなっている。

    映画自体は原作の雰囲気を忠実に再現したものとなっている。物語については整理する形でアレンジがなされているが、原作の名シーンや名セリフはきちんと残されている。配役については各人がまさにハマリ役と言える出来で、オカマの藤原兄弟や、着ぐるみのにゃんざぶろうといったサブキャラクターに至るまで忠実に実写化されているのには驚かされる。美大を舞台とした作品だけあって、美術や衣装といった部分に関しても通常の映画以上に注力されており、画面作りも説得力のあるものとなっている。マンガを原作にした実写映画は、今年に入ってからだけでも『最終兵器彼女』『東京大学物語』『LIMIT OF LOVE 海猿』『テニスの王子様』『猫目小僧』『デスノート』『笑う大天使』『ラブ★コン』『神の左手 悪魔の右手』(公開順)と数多く公開されており、実写化にはそれぞれに違った取り組み方がなされているが、なかでも『ハチミツとクローバー』はファンの期待にしっかりと応えた、ひとつの幸福な例として記憶しておきたい。

    (c)2006「ハチミツとクローバー」フィルム パートナーズ

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